花的故事

花物語

寺田寅彦

花的故事

翻译   王志镐

一.牵牛花

想起我幼年的事情,记不清是什么时候的事了。沿着宅前流淌着的浑浊的堀川运河,往上走过半个小镇,河流便向左拐弯,流入古城堡山脚下的树丛。面对古城,这边河岸有宽阔的空地。维新之前,此地是藩主的训练场,在那时已归县厅管辖,成了荒地。一片沙地里,杂草丛生,缤纷斑驳,到处都生长着牵牛花。住在附近的孩子们将此地作为玩耍的游乐场,他们从栅栏的破损处自由出入,完全无人管束。夏日傍晚,幽暗之中,他们各自将长长的竹竿扛在肩上向空地走去。不知从哪里飞出许多蝙蝠在扑食蚊虫,它们在低空盘旋着,只要挥动竹竿,就有被打落在地的。无风的黄昏朦朦胧胧的,呼喊蝙蝠的声音在对岸古城的石墙上回响着,消失在昏暗的河流上。“蝙蝠来啊!请喝水!那边的水苦啊!”这样的喊叫声此起彼伏,时而有竹竿掠过上空的无力的嗖嗖声。这场面看上去热闹非凡,却充满了难以言表的凄凉。

一 昼顔

いくつぐらいの時であったかたしかには覚えぬが、自分が小さい時の事である。 宅の前を流れている濁った堀川に沿うて半町ぐらい上ると川は左に折れて旧城のすその茂みに分け入る。その城に向こうたこちらの岸に広いあき地があった。維新前には藩の調練場であったのが、そのころは県庁の所属になったままで荒れ地になっていた。一面の砂地に雑草が所まだらにおい茂りところどころ昼顔が咲いていた。近辺の子供はここをいい遊び場所にして柵の破れから出入りしていたがとがめる者もなかった。夏の夕方はめいめいに長い竹ざおを肩にしてあき地へ出かける。どこからともなくたくさんの蝙蝠が蚊を食いに出て、空を低く飛びかわすのを、竹ざおを振るうてはたたき落とすのである。風のないけむったような宵闇に、蝙蝠を呼ぶ声が対岸の城の石垣に反響して暗い川上に消えて行く。「蝙蝠来い。水飲ましょ。そっちの水にがいぞ」とあちらこちらに声がして時々竹ざおの空を切る力ない音がヒューと鳴っている。にぎやかなようで言い知らぬさびしさがこもっている。

蝙蝠出动是在黄昏时分,随着夜深人静,一只,两只地飞走了,好像全都消失了,全都飞走了,于是孩子们也四散回家去了。之后一切都寂静下来,死一样的空气将广场封闭起来。不知什么时候,我追踪归巢的蝙蝠,一直走到荒地一隅,等突然觉察时,向周围一看,一个人也没有了,伙伴们都回家了,连呼叫伙伴回家的声音也没有了。向河对岸望去,只见古城的石墙上,郁郁葱葱的朴树将夜空遮了起来,令人感到恐怖,河边茂密的草木沉睡在黑暗中。一抬脚,草丛里的露水冰凉。当不可名状的黑暗的恐怖感袭来时,我不顾一切地跑了回来。广场的一角,有高高堆起的砂子,如河堤一般。我给它起名叫天文台,其实原来是射箭靶场的遗迹,时常可以从沙子中挖掘出长长的铅坠。年长的孩子爬上沙山,再滑下来,还经常玩打仗游戏。敌军在天文台上插着军旗防守着,官军攀登攻击。我也参加在这军队中,可是从未攀登到沙山顶上。经常欺负我的年长孩子一旦毫不费力地攀登上了沙山,就嘲笑我是胆小鬼。令人窝心的是,我虽然拼命登了上去,沙子却从脚下崩塌下来,想仰仗草丛救命,却将牵牛花也揪掉了,一路滑落下来,引得沙山上的敌军拍手大笑。

蝙蝠の出さかるのは宵の口で、おそくなるに従って一つ減り二つ減りどことなく消えるようにいなくなってしまう。すると子供らも散り散りに帰って行く。あとはしんとして死んだような空気が広場をとざしてしまうのである。いつか塒に迷うた蝙蝠を追うて荒れ地のすみまで行ったが、ふと気がついて見るとあたりにはだれもいぬ。仲間も帰ったか声もせぬ。川向こうを見ると城の石垣の上に鬱然と茂った榎がやみの空に物恐ろしく広がって汀の茂みはまっ黒に眠っている。足をあげると草の露がひやりとする。名状のできぬ暗い恐ろしい感じに襲われて夢中に駆け出して帰って来た事もあった。広場の片すみに高く小砂を盛り上げた土手のようなものがあった。自分らはこれを天文台と名づけていたが、実は昔の射的場の玉よけの跡であったので時々砂の中から長い鉛玉を掘り出す事があった。年上の子供はこの砂山によじ登ってはすべり落ちる。時々戦争ごっこもやった。賊軍が天文台の上に軍旗を守っていると官軍が攻め登る。自分もこの軍勢の中に加わるのであったが、どうしてもこの砂山の頂まで登る事ができなかった。いつもよく自分をいじめた年上の者らは苦もなく駆け上がって上から弱虫とあざける。「早く登って来い、ここから東京が見えるよ」などと言って笑った。くやしいので懸命に登りかけると、砂は足もとからくずれ、力草と頼む昼顔はもろくちぎれてすべりおちる。砂山の上から賊軍が手を打って笑うた。

不过,无论如何要攀登上去的念头在我幼小的心中扎下了根。有时候,在梦中攀登这座天文台,登不上去,急得直哭,被母亲叫起来坐在被窝上,还在哭。“你现在还小,爬不上去,等长大了再去攀登好吗?”母亲安慰着我。之后,我们一家离开故乡进了都市。小孩的心思并不执着,关于故乡的事情渐渐淡忘了,开着牵牛花的天文台仅仅遗留在如梦中的影子中。二十年后,今天回到了故乡,看到广场上建起了镇上漂亮的小学。一直想在长大了再攀登的天文台的沙山被拆掉了,连个影子也没留下。还保留着昔日模样和让我怀念的,是放学后在庭院里玩耍的活泼的孩子们,以及在栅栏底下业已凋零的牵牛花。

しかしどうしても登りたいという一念は幼い胸に巣をくうた。ある時は夢にこの天文台に登りかけてどうしても登れず、もがいて泣き、母に起こされ蒲団の上にすわってまだ泣いた事さえあった。「お前はまだ小さいから登れないが、今に大きくなったら登れますよ」と母が慰めてくれた。その後自分の一家は国を離れて都へ出た。執着のない子供心には故郷の事は次第に消えて昼顔の咲く天文台もただ夢のような影をとどめるばかりであった。二十年後の今日故郷へ帰って見るとこの広場には町の小学校が立派に立っている。大きくなったら登れると思った天文台の砂山は取りくずされてもう影もない。ただ昔のままをとどめてなつかしいのは放課後の庭に遊んでいる子供らの勇ましさと、柵の根もとにかれがれに咲いた昼顔の花である。 

二. 月见草

那是我上高中住在寄宿舍那年夏末的事情。“天明无常”是刚开始睡在寄宿舍二楼时记住的一句话。经常被睡相不好的邻舍男孩欺负吵醒,时钟才刚指向四点多。夜里,半开着寝室玻璃窗即将亮起曙光,我睡眼朦胧地,好像还躺在并排吊挂的蚊帐中做着黄粱美梦。窗户的下框处可见扁柏高高的树梢,好像刚睡醒的后山正从那上面窥视着。我扔下未叠好的被褥,偷偷溜出去,来到了运动场,沐浴在宽阔草地的露珠里,赤脚从趿拉着的士兵靴中拔出来。受惊的蚱蚂拍着翅膀飞了起来,草甸周围被小松原围绕着,边上到处盛开着月见草花。在那草地上胡乱踩踏,绕着运动场跑了一圈,这时旭日染红了钟楼,伙房的井台开始锐气十足地发出咯吱咯吱的声音。

二 月見草

高等学校の寄宿舎にはいった夏の末の事である。明けやすいというのは寄宿舎の二階に寝て始めて覚えた言葉である。寝相の悪い隣の男に踏みつけられて目をさますと、時計は四時過ぎたばかりだのに、夜はしらしらと半分上げた寝室のガラス窓に明けかかって、さめ切らぬ目にはつり並べた蚊帳の新しいのや古い萌黄色が夢のようである。窓の下框には扁柏の高いこずえが見えて、その上には今目ざめたような裏山がのぞいている。床はそのままに、そっと抜け出して運動場へおりると、広い芝生は露を浴びて、素足につっかけた兵隊靴をぬらす。ばったが驚いて飛び出す羽音も快い。芝原のまわりは小松原が取り巻いて、すみのところどころには月見草が咲き乱れていた。その中を踏み散らして広い運動場を一回りするうちに、赤い日影が時計台を染めて賄所(まかないしょ)の井戸が威勢よくきしり始めるのであった。

那个时候,我在某天夜里,在奇妙的梦中见到的,正是在运动场,在更加广阔的草原上,沐浴在朦胧的月光中,似梦非梦的样子。薄薄的夜雾降落在草叶末端,四面仿佛被薄薄的绸子包了起来。从哪里飘来草花似的芳香,却不知是什么香味。从脚下向四处铺开的,是一大片盛开的月见草花。与我并排走着的一位年轻的女孩,脸上有着世人难以想象的青白轮廓,被月光照着默默地走着。淡灰色的衣服,长长袖子也是月见草染出来的,美丽极了。怎么会做这样的梦,如今已无法考证。从梦中醒来,玻璃窗已微微发白,可以听到虫子的鸣叫。出了身虚汗,心如绞痛。一起来就离开床铺,来到运动场,在月见草花盛开的运动场周围到处跑,也不知道跑了多少次。从这以后,每天早上去运动场,与其说在这里跑步时再也没有那样的爽快心情,不如说感到非常孤单,从那以后,我似乎渐渐地陷入了自我削减的忧郁狂想中,我的不治之症就是那时得的。

そのころある夜自分は妙な夢を見た。ちょうど運動場のようで、もっと広い草原の中をおぼろな月光を浴びて現(うつつ)ともなくさまようていた。淡い夜霧が草の葉末におりて四方は薄絹に包まれたようである。どこともなく草花のような香がするが何のにおいとも知れぬ。足もとから四方にかけて一面に月見草の花が咲き連なっている。自分と並んで一人若い女が歩いているが、世の人と思われぬ青白い顔の輪郭に月の光を受けて黙って歩いている。 薄鼠色(うすねずみいろ)の着物の長くひいた裾(すそ)にはやはり月見草が美しく染め出されていた。どうしてこんな夢を見たものかそれは今考えてもわからぬ。夢がさめてみるとガラス窓がほのかに白んで、虫の音が聞こえていた。寝汗が出ていて胸がしぼるような心持ちであった。起きるともなく床を離れて運動場へおりて月見草の咲いているあたりをなんべんとなくあちこちと歩いた。その後も毎朝のように運動場へ出たが、これまでにここを歩いた時のような爽快(そうかい)な心持ちはしなくなった。むしろ非常にさびしい感じばかりして、そのころから自分は次第にわれとわが身を削るような、憂鬱(ゆううつ)な空想にふけるようになってしまった。自分が不治の病を得たのもこのころの事であった。 

三.栗树花

我有三年工夫寄宿在吉住家,它位于黑发山山脚下稍稍往里的地方。房子后面是狭窄的后院,上面几乎被生长在悬崖上的大树密密麻麻地覆盖着。倾斜而有年岁的落叶树的果实,与鹎鸟的鸣叫声一起落在房檐上。我借宿的地方是单门独户,从屋外的门出入一定要通过后院。面朝着庭院的客厅尽头,有一间只有三张榻榻米大小的房间突出在外,有一扇漂亮的圆窗。这一定是房主女儿的起居室,圆窗的拉窗即使在夏天也关闭着。正好在这间房间的上方,有一棵很大的栗树,一到夏初,忙于考试前的准备工作期间,缨带似的黄花从房顶一直到院子落了一大片。落花腐烂之后,小小的庭院中充满了一种甜甜的浓烈的香味。大批大头苍蝇发出声势浩大的嗡嗡声,聚集到这里。我想是势力强盛的大自然,用旺盛之气袭击了它们的脑袋吧。散落着花瓣的窗户内,房主羞怯的女儿低垂着脑袋,正在读书或学做针线活。我初次来到这人家时,她才刚十四五岁的样子,披散着立桃式顶髻的额发,色泽黝黑,容貌俊俏,目光清澈,从哪方面看都是一个可爱的女孩。由于房主夫妇没有成年的孩子,在亲戚的孩子中领养了一个。他们除了女儿之外,只有一只三色猫,不用说是一个很寂寞的家庭。至于我自己,一向是不爱说话的怪人,很少与房主说亲切话,对女孩更未说过悄悄话。每天吃饭时,那女孩随着她那木屐声出现了,带着本地口音说道:“请别误了吃饭!”说完便匆匆而去。开始时,仅仅是作为孩子的想法,可是随着每年夏天探亲回来,总觉得自己有点长大了,自己的眼睛也看得更清楚了。考试前的某一天,掌灯时节,我复习腻了,便从独立房屋的走廊走出来,栗子树花的香味扑鼻而来。房主屋前的灌木丛中,女孩穿着雪白的衣服,系着红色的带子,一个人坐在暗淡的光线中。这时她从正面凝视着我,露出了奇怪的笑容,接着像是追什么东西似的,向客厅方向飞奔而去。到那年夏天为止,我离开那个地方去了东京,第二年夏初时节,收到了从几乎忘了的吉住家发来的信,似乎是那女孩写的。由于除了贺年片之外,从未听到任何关于他们家的消息,女孩将他们在想些什么,他们那地方的样子,详详细细地写信告诉我。她还问我,离开原来住的地方之后,有没有在谁家借宿。信上还写着,东京那地方,一定是个好地方吧,一生中想去那里看一看。关于其他事情,似乎再没有写什么,我总觉得那艳丽的笔调,毕竟出自年轻人之笔吧。最后结束时写着,栗子树开花等候回信,不久花谢亦等候回信。落款人姓名,是以母亲的名义写的。

三 栗の花

三年の間下宿していた吉住の家は黒髪山のふもともやや奥まった所である。家の後ろは狭い裏庭で、その上はもうすぐに崖(がけ)になって大木の茂りがおおい重なっている。傾く年の落ち葉木の実といっしょに鵯の鳴き声も軒ばに降らせた。自分の借りていた離れから表の門への出入りにはぜひともこの裏庭を通らねばならぬ。庭に臨んだ座敷のはずれに三畳敷きばかりの突き出た小室があって、しゃれた丸窓があった。ここは宿の娘の居間ときまっていて、丸窓の障子は夏も閉じられてあった。ちょうどこの部屋の真上に大きな栗の木があって、夏初めの試験前の調べが忙しくなるころになると、黄色い房紐のような花を屋根から庭へ一面に降らせた。落ちた花は朽ち腐れて一種甘いような強い香気が小庭に満ちる。ここらに多い大きな蠅が勢いのよい羽音を立ててこれに集まっている。力強い自然の旺盛な気が脳を襲うように思われた。この花の散る窓の内には内気な娘がたれこめて読み物や針仕事のけいこをしているのであった。自分がこの家にはじめて来たころはようよう十四五ぐらいで桃割れに結うた額髪をたらせていた。色の黒い、顔だちも美しいというのではないが目の涼しいどこかかわいげな子であった。主人夫婦の間には年とっても子が無いので、親類の子供をもらって育てていたのである。娘のほかに大きな三毛ねこがいるばかりでむしろさびしい家庭であった。自分はいつも無口な変人と思われていたくらいで、宿の者と親しいむだ話をする事もめったになければ、娘にもやさしい言葉をかけたこともなかった。毎日の食事時にはこの娘が駒下駄の音をさせて迎えに来る。土地のなまった言葉で「御飯おあがんなさいまっせ」と言い捨ててすたすた帰って行く。初めはほんの子供のように思っていたが一夏一夏帰省して来るごとに、どことなくおとなびて来るのが自分の目にもよく見えた。卒業試験の前のある日、灯ともしごろ、復習にも飽きて離れの縁側へ出たら栗の花の香は慣れた身にもしむようであった。 主家の前の植え込みの中に娘が白っぽい着物に赤い帯をしめてねこを抱いて立っていた。自分のほうを見ていつにない顔を赤くしたらしいのが薄暗い中にも自分にわかった。そしてまともにこっちを見つめて不思議な笑顔をもらしたが、物に追われでもしたように座敷のほうに駆け込んで行った。その夏を限りに自分はこの土地を去って東京に出たが、翌年の夏初めごろほとんど忘れていた吉住の家から手紙が届いた。娘が書いたものらしかった。年賀のほかにはたよりを聞かせた事もなかったが、どう思うたものか、こまごまとかの地の模様を知らせてよこした。自分の元借りていた離れはその後だれも下宿していないそうである。東京という所はさだめてよい所であろう。一生に一度は行ってみたいというような事も書いてあった。別になんという事もないがどことなくなまめかしいのはやはり若い人の筆だからであろう。いちばんおしまいに栗の花も咲き候。やがて散り申し候とあった。名前は母親の名が書いてあった。 

四.凌霄花

上小学时,我最讨厌的学科,就数算术了。经常因为算术成绩不好,让父母担心,于是求中学的老师,在放暑假期间去老师家补习功课。从家到老师家有四五条街的距离,出了家里的后门,沿着小河刚走几步便出了村子尽头,从那里可以看见老师家高高的松树耸立在附近的稻草房顶和灌木丛之上,凌霄花自上而下毫无缝隙地缠绕着,美不胜收。每天一早,在母亲的再三叮嘱下,硬着头皮出门,后面的小河里,美丽的水藻在清澈的水底起伏摇荡,小鲫鱼群不时在水藻中游过,鱼腹闪着银色的光芒。小孩们光着的胸前背后涂着泥,在小河里啪擦啪擦地戏耍着。有的在河上装置木头水车,有的乘坐盆船顺流而下。我抑制着羡慕的心情,一边沿着小河揪着岸上的杂草,一边抱着石板朝老师家急急忙忙地走去。打开被寒竹树篱围着的木柱门,玄关旁边的地坪上并排放着草席,上面经常晾着蚕茧。从玄关出来给我引路的夫人肤色黝黑,说来了一句“这样热的天,你还劲头十足!”便领我去客厅。打扫得干干净净的庭院面对着走廊边,低矮的桌子被搬了出来。老师走了出来,一声不响地将算术习题集从客厅的书架上拿了出来。这是横向狭长的、在黄表纸上用木版印刷的老本子。“有甲乙两位旅行者,甲平均一小时走一里,乙平均一小时走一里半……”我听老师读了如此之类的习题,又讲解了题意,就让我试着做做看。我将题目放在面前,将石笔在石板上弄得咯噔咯噔直响,孜孜不倦地思考着。客厅走廊的房檐下,悬挂着鱼网,还挂着许多像横木似的钓竿。旅行者乙几个小时被旅行者甲追上,我还是一无所知,想得脑袋直发热,汗水从盘着的脚下渗出,衣服黏在身上,心情很不好。低头朝庭院一看,斗笠松高高的树干上,通红的凌霄花如火般盛开着。老师看好时机出来说:“怎么样,难吗?哪一题?”便坐在我前面。老师将连呢绒也能磨平的石板擦了擦,将各个角落擦了一遍,然后慢慢地为我仔细解释。不时念叨着“听明白了吗?听明白了吗?”我却对大部分题目还是不太明白,真是莫名悲哀。面对着如此的郁闷,鼻涕自然而然地耷拉下来,我一声不吭地忍耐着,在快要落下来时,断然抽吸上去,难受极了。将要吃中饭的时候,厨房那边响起了盆碗的声音,还散发出烧菜的香味。我的肚子也饿了,感到很难受。老师反复教我,看来结果并不理想,老师那悲壮的声音也稍稍提高了,那又是莫名悲哀。“快完了,明天再来吧。”老师说。不管怎样,觉得一天的任务似乎已经完成了,便匆匆回到家里。在家什么也不知道的母亲,正做了许多许多好吃的凉菜等着我,她用凉水将我汗流满面的脸洗干净,那溺爱的样子,又是莫名悲哀!

四 のうぜんかずら

小学時代にいちばんきらいな学科は算術であった。いつでも算術の点数が悪いので両親は心配して中学の先生を頼んで夏休み中先生の宅へ習いに行く事になった。 宅から先生の所までは四五町もある。 宅の裏門を出て小川に沿うて少し行くと村はずれへ出る、そこから先生の家の高い松が近辺の藁屋根や植え込みの上にそびえて見える。これにのうぜんかずらが下からすきまもなくからんで美しい。毎日昼前に母から注意されていやいやながら出て行く。裏の小川には美しい藻が澄んだ水底にうねりを打って揺れている。その間を小鮒の群れが白い腹を光らせて時々通る。子供らが丸裸の背や胸に泥を塗っては小川へはいってボチャボチャやっている。付け木の水車を仕掛けているのもあれば、盥船に乗って流れて行くのもある。自分はうらやましい心をおさえて川沿いの岸の草をむしりながら石盤をかかえて先生の家へ急ぐ。寒竹の生けがきをめぐらした冠木門をはいると、玄関のわきの坪には蓆を敷き並べた上によく繭を干してあった。玄関から案内を請うと色の黒い奥さんが出て来て「暑いのによう御精が出ますねえ」といって座敷へ導く。きれいに掃除の届いた庭に臨んだ縁側近く、低い机を出してくれる。先生が出て来て、黙って床の間の本棚から算術の例題集を出してくれる。横に長い黄表紙で木版刷りの古い本であった。「甲乙二人の旅人あり、甲は一時間一里を歩み乙は一里半を歩む……」といったような題を読んでその意味を講義して聞かせて、これをやってごらんといわれる。先生は縁側へ出てあくびをしたり勝手のほうへ行って大きな声で奥さんと話をしたりしている。自分はその問題を前に置いて石盤の上で石筆をコツコツいわせて考える。座敷の縁側の軒下に投網がつり下げてあって、長押のようなものに釣竿がたくさん掛けてある。何時間で乙の旅人が甲の旅人に追い着くかという事がどうしてもわからぬ、考えていると頭が熱くなる、汗がすわっている足ににじみ出て、着物のひっつくのが心持ちが悪い。頭をおさえて庭を見ると、笠松の高い幹にはまっかなのうぜんの花が熱そうに咲いている。よい時分に先生が出て来て「どうだ、むつかしいか、ドレ」といって自分の前へすわる。ラシャ切れを丸めた石盤ふきですみからすみまで一度ふいてそろそろ丁寧に説明してくれる。時々わかったかわかったかと念をおして聞かれるが、おおかたそれがよくわからぬので妙に悲しかった。うつ向いていると水洟が自然にたれかかって来るのをじっとこらえている、いよいよ落ちそうになると思い切ってすすり上げる、これもつらかった。昼飯時が近くなるので、勝手のほうでは皿鉢の音がしたり、物を焼くにおいがしたりする。腹の減るのもつらかった。繰り返して教えてくれても、結局あまりよくはわからぬと見ると、先生も悲しそうな声を少し高くすることがあった。それがまた妙に悲しかった。「もうよろしい、またあしたおいで」と言われると一日の務めがともかくもすんだような気がして大急ぎで帰って来た。 宅では何も知らぬ母がいろいろ涼しいごちそうをこしらえて待っていて、汗だらけの顔を冷水で清め、ちやほやされるのがまた妙に悲しかった。 

五.芭蕉花

天一放晴,就突然热起来。从早上起只写了一封信,就什么都不想做。几次试着跪坐在书桌前,马上苦不堪言,终于躺了下来。凉风不时吹过,屋檐下玻璃的风铃叮当作响。凉床前,罩式蚊帐中俊坊的脸红彤彤的,脑袋从枕头上滚落下来,脸朝下躺着。我走出套廊,庭院里已有一半阴影,在阴影和日光的边缘,蚂蚁在转着圈爬进爬出。前几天,从上田家要来的大理花刚要发芽的样子,却还没有长大。防雨套窗前,芭蕉伸出了巨大的叶片,其中一棵开出了今年的花。肥大而厚实的花瓣只打开了三瓣四瓣,也许等都开放了,就腐朽了吧,好像已经有一点儿枯萎了。有两三只蚂蚁爬在上面。俊坊突然哭了起来,我张望了一下,他坐在蚊帐里哭着,将手脚伸了出来。妻子从厨房飞奔出来,男孩自己抱着牛奶瓶,放在伸出来的膝盖上,咬着奶头咕嘟咕嘟不息气地喝着。一边将泪汪汪的双眼在父母的脸上均等地扫视着,一边喝着牛奶。喝完了,似乎想起什么似的,又哭了起来,看上去还未睡醒呢。妻子背着阿俊,站在套廊上说:“芭蕉花,孩子啊,芭蕉花开了呀!这一朵多么大啊!结出果实来,那果实不能吃啊!”孩子停止哭泣,指着芭蕉花说:“摸!摸!”妻子又说:“是啊!只有人在花还未开就死去了呢!”一边摇着背上的孩子,一边说“妈!”孩子也仿效着说“妈!”我们两人都笑了,孩子也笑了。于是又指着芭蕉花说“摸!摸!”

五 芭蕉の花

晴れ上がって急に暑くなった。朝から手紙を一通書いたばかりで何をする元気もない。なんべんも机の前へすわって見るが、じきに苦しくなってついねそべってしまう。時々涼しい風が来て軒のガラスの風鈴が鳴る。床の前には幌蚊帳の中に俊坊が顔をまっかにして枕をはずしてうつむきに寝ている。縁側へ出て見ると庭はもう半分陰になって、陰と日向の境を蟻がうろうろして出入りしている。このあいだ上田の家からもらって来たダーリアはどうしたものか少し芽を出しかけたままで大きくならぬ。戸袋の前に大きな広葉を伸ばした芭蕉の中の一株にはことし花が咲いた。大きな厚い花弁が三つ四つ開いたばかりで、とうとう開ききらずに朽ちてしまうのか、もう少ししなびかかったようである。 蟻が二三匹たかっている。俊坊が急に泣き出したからのぞいて見ると蚊帳の中にすわって手足を投げ出して泣いている。勝手から妻が飛んでくる。坊は牛乳のびんを、投げ出した膝の上で自分にかかえて乳首から息もつかずごくごく飲む。涙でくしゃくしゃになった目で両親の顔を等分にながめながら飲んでいる。飲んでしまうとまた思い出したように泣き出す。まだ目がさめきらぬと見える。妻は俊坊をおぶって縁側に立つ。「芭蕉の花、坊や芭蕉の花が咲きましたよ、それ、大きな花でしょう、実がなりますよ、あの実は食べられないかしら。」坊は泣きやんで芭蕉の花をさして「モヽモヽ」という。「芭蕉は花が咲くとそれきり枯れてしまうっておとうちゃま、ほんとう?」「そうよ、だが人間は花が咲かないでも死んでしまうね」といったら妻は「マア」といったきり背をゆすぶっている。坊がまねをして「マア」という。二人で笑ったら坊もいっしょに笑った。そしてまた芭蕉の花をさして「モヽモヽ」といった。 

六. 野玫瑰

那是夏季在山路上旅行时发生的事。越过山顶,风突然停止了,变得奇热无比。沿着狭窄的山谷之间阶梯式并列着的、穿插在山田边上的小道,蜻蜓的翅膀在闪闪发光,不时有蛇从前方爬出。覆盖着山谷的漆黑天空,不时有白云飘过。喉咙干渴难忍。道旁田埂边上,小水沟流淌着,带着金色的水面,覆盖着青色的表皮,反射出微弱的光芒。在行进之中,横穿过长着茂密树林的道路一侧,发现陷入田埂的清泉细流时,便不由得高兴起来。马上将穿着草鞋的脚浸在了水里,一股凉气浸透了全身。稍稍拨开树丛走入道路一旁,这里有很特别的栎树、橡树,黑黝黝的,茂密无比。长满苔藓的地方,螃蟹在爬行着。从悬崖上渗出的水,从美丽的凤尾草的叶端滴下来,流到下面岩石低洼处的水坑,多余的水溢出来,通过苔藓下面流走了。小小的竹舀子浮在水面,被水珠敲打着。我紧紧抓住舀子,品尝着美味的、冰冷的、使人断肠的泉水。离开悬崖底下不远处,有一株大大的野玫瑰,盛开着洁白的花朵。我靠近它,吸着它那强烈的香味,摘了一小枝。觉得有人的迹象,瞅了一下,直到现在一直没注意,在茂密的树阴里,有一个砍柴的女子正在休息。她将背负的柴火倚靠在绝壁上,裹着绑腿的脚正要跨出的样子,一动不动地朝这边看着。因为之前没想到,我惊奇地回头看着她。缝补过的衣服,短短的下摆用腰带扎着。洁白的布手巾扎在眉心,下面的黑发垂在额头。不用多想,一定是一张标致的脸。这不是能在都市见到的健全的脸色,多少被阳光晒过,更显美丽。当我正视着她那毫不畏惧的黑眼珠时,总觉得有一种被盘问的感觉,不由得懦弱地鞠了个躬。蝉儿叫个不停,天热得更厉害了。带着刚才摘的野玫瑰,又走了两三条街,从对面走上来一位背负柴火的年轻人。背着与身高不成比例的柴火,晃晃悠悠地走来。健壮黑红的脸,裹着缠头巾,腰间磨得飞快的镰刀熠熠生辉。在相交叉的时候,他说了句“麻烦您了!”并朝我的脸看了一眼。不一会,他又回过头来看,年轻人已攀到了清泉近旁,即使在那边也回过头来朝这里看着。不知是什么原因,我将手里拿着的野玫瑰扔在地上,急急忙忙地朝前面清泉那边走去。

六 野ばら

夏の山路を旅した時の事である。峠を越してから急に風が絶えて蒸し暑くなった。狭い谷間に沿うて段々に並んだ山田の縁を縫う小道には、とんぼの羽根がぎらぎらして、時々蛇が行く手からはい出す。谷をおおう黒ずんだ青空にはおりおり白雲が通り過ぎるが、それはただあちこちの峰に藍色の影を引いて通るばかりである。 咽喉がかわいて堪え難い。道ばたの田の縁に小みぞが流れているが、金気を帯びた水の面は青い皮を張って鈍い光を照り返している。行くうちに、片側の茂みの奥から道を横切って田に落つる清水の細い流れを見つけた時はわけもなくうれしかった。すぐに草鞋のまま足を浸したら涼しさが身にしみた。道のわきに少し分け入ると、ここだけは特別に樫や楢がこんもりと黒く茂っている。 苔は湿って蟹が這うている。 崖からしみ出る水は美しい羊歯の葉末からしたたって下の岩のくぼみにたまり、余った水はあふれて苔の下をくぐって流れる。小さい竹柄杓(たけびしゃく)が浮いたままにしずくに打たれている。自分は柄杓にかじりつくようにして、うまい冷たいはらわたにしむ水を味おうた。少し離れた崖の下に一株の大きな野ばらがあって純白な花が咲き乱れている。自分は近寄って強いかおりをかいで小さい枝を折り取った。人のけはいがするのでふと見ると、今までちっとも気がつかなかったが、茂みの陰に柴刈りの女が一人休んでいた。背負うた柴を崖にもたせて脚絆の足を投げ出したままじっとこっちを見ていた。あまり思いがけなかったので驚いて見返した。継ぎはぎの着物は裾短かで繩の帯をしめている。白い手ぬぐいを眉深にかぶった下から黒髪が額にたれかかっている。思いもかけず美しい顔であった。都では見ることのできぬ健全な顔色は少し日に焼けていっそう美しい。人に臆せぬ黒いひとみでまともに見られた時、自分はなんだかとがめられたような気がした。思わずいくじのないお辞儀を一つしてここを出た。 蝉が鳴いて蒸し暑さはいっそうはげしい。今折って来た野ばらをかぎながら二三町行くと、向こうから柴を負うた若者が一人上って来た。身のたけに余る柴を負うてのそりのそりあるいて来た。たくましい赤黒い顔に鉢巻をきつくしめて、腰にはとぎすました鎌が光っている。行き違う時に「どうもお邪魔さまで」といって自分の顔をちらと見た。しばらくして振り返って見たら、若者はもう清水のへん近く上がっていたが、向こうでも振りかえってこっちを見た。自分はなんというわけなしに手に持っていた野ばらを道ばたに捨てて行く手の清水へと急いで歩いた。 

七. 臭桐树花

还是在上小学的时候,为了收集昆虫,与朋友做了伙伴。我死乞白赖地向母亲要了破蚊帐做捕虫网,不畏夏伏天猛烈的太阳,扛在肩上,每天出去捕捉虫子。蝶蛾与甲虫类最多栖息在丘陵之中,在漫长的白天虚度时光。在第二第三层围墙中的草地上,有大量珍贵的蝴蝶和蚂蚱。稍稍走进草木茂密处,树干上可以发现各种各样的甲虫。金花虫、金龟子、磕头虫的种类有许多。草木强烈的清香扑鼻而来,我心情激动地走着,寻找着这样的虫子。将捕捉来的虫子用热水和樟脑杀死,漂亮地排列在用点心盒做的标本箱中。随着标本箱的增加,觉得乐不可支。捕捉虫子回来,身上汗水如洗桑拿似的,脸上如火燎似的。怎么会如此喜欢虫子,母亲至今还数落着我昔日一个故事。岁月流逝,趣事重提,当时发现和捕捉珍贵虫子的极度喜悦依然如旧。至今还记得这样一件事。丘陵深处闷热潮湿,朽木发出香味。不知不觉面临着丘陵深处山脚下的一条沟渠,走进黑黝黝的丛林中,有一棵高大的臭桐树,树梢上开满了粉红色的花。散落的花随风飘落,散布在水边和腐朽的沉船上,美不胜收。这根树干上,到处有虫子蛀入的洞穴,洞口被细小的木蠹及其粪便一起毁坏了,一股臭味扑鼻而来。在树干的高处,有一只巨大而漂亮的独角仙竖起威风凛凛的犄角停了下来,当我发现时真是高兴。我的标本箱中,好的独角仙已经一只也没有了,我的心蹦蹦乱跳,举起了网兜。网兜差一点够不到,好不容易捉到了,急忙放入腰间挂着的昆虫笼子,怀着隐藏不住的喜悦走出了森林。一直来到第三层石墙下面,遇到一位从对面沿着树阴走来、手里牵着一个小孩、撑着一把美丽的蝙蝠伞的女子。她是城里小康家庭的妻女俩吧。撑着伞的手挎着一个药瓶,另一只手牵着孩子走着。孩子穿着洁白的西服,大大的新麦秸帽子的细绳系在可爱的下巴底下。她看见了我提着的昆虫笼子,便抛开了母亲的手过来瞧,然后瞪大了眼睛,朝母亲的方向跑去,将袖子用力向上拉,想了想,又过来瞧昆虫笼子。尽管母亲叫她快回来,她却怎么也不肯离开我身边。勉强拉着她走到路中间,她涨红了脸,终于哭了出来。母亲无计可施,便一味斥责着。这时,我打开昆虫笼子的盖子,将独角仙引出来,并在路边拔了一根相扑草,牢牢地系在独角仙的犄角上。然后说了声“来啊!”将它放到了孩子的手中。孩子停止了哭泣,脸上显得又是害羞,又是高兴的样子。母亲感到很吃惊,一边斥责孩子,一边向我道谢。我不知怎么也变得害羞起来,一边一声不吭地摇了摇昆虫笼子,一边跑了起来。又像是高兴,又像是舍不得,那是一种从来没有的感觉。从那以后,屡次走过臭桐树林下,再也没有见过像那次那样漂亮的独角仙,也再也没有遇到过那次见过的娘儿俩。

七 常山の花

まだ小学校に通ったころ、昆虫を集める事が友だち仲間ではやった。自分も母にねだって蚊帳の破れたので捕虫網を作ってもらって、土用の日盛りにも恐れず、これを肩にかけて毎日のように虫捕りに出かけた。 蝶蛾や甲虫類のいちばんたくさんに棲んでいる城山の中をあちこちと長い日を暮らした。二の丸三の丸の草原には珍しい蝶やばったがおびただしい。少し茂みに入ると樹木の幹にさまざまの甲虫が見つかる。玉虫、こがね虫、米つき虫の種類がかずかずいた。強い草木の香にむせながら、胸をおどらせながらこんな虫をねらって歩いた。 捕って来た虫は熱湯や樟脳で殺して菓子折りの標本箱へきれいに並べた。そうしてこの箱の数の増すのが楽しみであった。虫捕りから帰って来ると、からだは汗を浴びたようになり、顔は火のようであった。どうしてあんなに虫好きであったろうと母が今でも昔話の一つに数える。年を経ておもしろい事にも出会うたが、あのころ珍しい虫を見つけて捕えた時のような鋭い喜びはまれである。今でも城山の奥の茂みに蒸された朽ち木の香を思い出す事ができるのである。いつか城山のずっとすそのお堀に臨んだ暗い茂みにはいったら、一株の大きな常山木があって桃色がかった花がこずえを一面におおうていた。散った花は風にふかれて、みぎわに朽ち沈んだ泥船に美しく散らばっていた。この木の幹はところどころ虫の食い入った穴があって、穴の口には細かい木くずが虫の糞と共にこぼれかかって一種の臭気が鼻を襲うた。木の幹の高い所に、大きなみごとなかぶと虫がいかめしい角を立てて止まっているのを見つけた時はうれしかった。自分の標本箱にはまだかぶと虫のよいのが一つもなかったので、胸をとどろかして網を上げた。少し網が届きかねたがようよう首尾よく捕れたので、腰につけていた虫かごに急いで入れて、包みきれぬ喜びをいだいて森を出た。三の丸の石段の下まで来ると、向こうから美しい蝙蝠傘(こうもりがさ)をさした女が子供の手を引いて木陰を伝い伝い来るのに会うた。町の良い家の妻女であったろう。傘を持った手に薬びんをさげて片手は子供の手を引いて来る。子供は大きな新しい麦藁帽の紐をかわいい頤にかけてまっ白な洋服のようなものを着ていた。自分のさげていた虫かごを見つけると母親の手を離れてのぞきに来たが、目を丸くして母親のほうへ駆けて行って、袖をぐいぐい引っぱっていると思うと、また虫かごをのぞきに来た。母親は早くおいでよと呼ぶけれども、なかなか自分のそばを離れぬ。しいて連れて行こうとすると道のまん中にしゃがんでしまってとうとう泣き出した。母親は途方にくれながらしかっている。自分はその時虫かごのふたをあけてかぶと虫を引き出し道ばたの相撲取草を一本抜いて虫の角をしっかり縛った。そして、さあといって子供に渡した。子供は泣きやんできまりの悪いようにうれしい顔をする。母親は驚いて子供をしかりながらも礼をいうた。自分はなんだかきまりが悪くなったから、黙ってからになった虫かごを打ちふりながら駆け出したが、うれしいような、惜しいような、かつて覚えない心持ちがした。その後たびたび同じ常山木の下へも行ったが、あの時のようなみごとなかぶと虫はもう見つからなかった。またあの時の親子にも再び会わなかった。 

八.龙胆花

有一位同年级同学藤野。在去暑期夏令营参加丛林演习时,与我在同一组,经常走着去作测量等工作。他看上去病泱泱的,个子瘦长,因此比起身体来,脑袋很小,经常排在前面做步行队列的排头兵。他不爱说话,始终呆呆地像是在考虑着什么事情,在其他一般来说很快活的伙伴之中,他不受欢迎。我看着这男孩的脸,不知为什么心里好像有点可怜他。关于这男孩的过去和现在的情况,本人对别人从不提起,也从未从别人那里听到什么。有一年夏天,在丛林演习的林间道路铺设实施进行中发生了一件事。藤野与另外三四个人编成一组,在山间小屋里一起生活了两个星期。说是山间小屋,其实只是在山崖的斜坡上将圆木横着垒起来,在这上面铺上席子和杉树叶,下面垫上一层木板,在黑暗中用毛毯裹着无所事事地躺着。小屋的角落里,用收集来的石头垒起了炉灶,这里是来往的樵夫做饭的地方。做完一天的工作回来,从悬崖小道上抬头看见从小屋里冉冉升起的青烟,别提有多高兴。即使是这样的小屋,也给人以回家的感觉。一到夜里,从天井的圆木吊下来的灯被群集的小虫追逐着,我们经常将饼干罐头放在正中间,一边进行必要的计算和制图,一边爬在地上闲聊着。经常谈论学校的传闻,还有模仿教授们的言行,大家大笑着,热闹非凡,还有活灵活现、奕奕如生的色情故事和即时新闻。在这种场合,藤野对别人讲的故事不听不闻,脸上现出不安的神情,似乎在考虑着什么,有时从衣袋里拿出练习笔记本,不停地写着什么。有一天夜里,半夜醒来,山里静悄悄的,月光照在炉灶上。小屋的外面有走路的脚步声,我从席子的缝隙偷偷望出去,看见青色的月光下,藤野在信步而行。每天一起床,一吃完浇上酱汤的饭,他就带上经纬仪和旗杆出门了。到了目的地,他放下器械,开始轮流观测。藤野在别人当班时,有时坐在树墩子上,有时躺在草丛中,总是好像在思考着什么。终于轮到他当班了,他急忙出来用器械观察,以极其热心的程度阅读度数,不管什么目标,都经常不出任何读数上的差错。一旦等着做笔记的他的伙伴发现观察错了目标或提醒他读数有错,他的脸便涨得通红,感到非常羞耻,变得战战兢兢。嘴里说着失敬了、失敬了,大家都想尽量不让藤野去阅读,可是行不通,还是轮流去阅读。于是有一次不知为什么错了五回,这一次他感到非常羞耻,一脸悲伤。而且抱着裤子的膝盖陷入沉思。就这个样子,两星期时间大部分过去了,像是在即将撤退回去之前几天,一天下着倾盆大雨,大雾弥漫,什么工作也没有。正当我们在小屋闭门不出,倒头大睡时,藤野的笔记本落在了我的旁边,我毫不在意地捡起一看,只见里面夹着一枚画着山里的许多龙胆花的书签,有各种各样乱涂的画。其中在画家的女人头上有几朵银杏花,还有“命运”之类的字,用各种各样的书写体大量地、漫不经心地涂写着。脸冲上睡着的藤野起身一看,连一下子变白了,但什么也没说。

八 りんどう

同じ級に藤野というのがいた。夏期のエキスカーションに演習林へ行く時によく自分と同じ組になって測量などやって歩いた。見ても病身らしい、背のひょろ長い、そしてからだのわりに頭の小さい、いつも前かがみになって歩く男であった。無口で始終何かぼんやり考え込んでいるようなふうで、他の一般に快活な連中からはあまり歓迎されぬほうであった。しかしごく気の小さい好人物で柔和な目にはどこやら人を引く力はあった。自分はこの男の顔を見ると、どういうわけか気の毒なというような心持ちがした。この男の過去や現在の境遇などについては当人も別に話した事はなし、他からも聞いた事はなかったが、何となしに不幸な人という感じが、初めて会うた時から胸に刻みつけられてしまった。ある夏演習林へ林道敷設の実習に行った時の事である。藤野のほかに三四人が一組になって山小屋に二週間起臥を共にした。山小屋といっても、山の崖に斜めに丸太を横に立てかけ、その上を蓆や杉葉でおおうた下に板を敷いて、めいめいに毛布にくるまってごろごろ寝るのである。小屋のすみに石を集めた竈を築いて、ここで木こりの人足が飯をたいてくれる。一日の仕事から帰って来て、小屋から立ちのぼる青い煙を岨道から見上げるのは愉快であった。こんな小屋でも宅へ帰ったような心持ちになる。夜になると天井の丸太からつるしたランプの光に集まる虫を追いながら、必要な計算や製図をしたり、時にはビスケットの罐をまん中に、みんなが腹ばいになってむだ話をする事もある。いつもよく学校のうわさや教授たちのまねが出てにぎやかに笑うが、またおりおり若やいだなまめかしいような話の出る事もあった。こんな時藤野は人の話を聞かぬでもなく聞くでもなく、何か不安の色を浮かべて考えているようであるが、時々かくしから手慣れた手帳を出してらく書きをしている。一夜夜中に目がさめたら山はしんとして月の光が竈の所にさし込んでいた。小屋の外を歩く足音がするから、蓆のすきからのぞいて見ると、青い月光の下で藤野がぶらりぶらり歩いていた。毎朝起きるときまりきった味噌汁をぶっかけた飯を食ってセオドライトやポールをかついで出かける。目的の場所へ着くと器械をすえてかわるがわる観測を始める。藤野は他人の番の時には切り株に腰をかけたり草の上にねころんだりしていつものように考え込んでいるが、いよいよ自分の番になると急いで出て来て器械をのぞき、熱心に度盛りを読んでいるが、どういうものか時々とんでもない読み違いをする。ノートを控えている他の仲間から、それではあんまりちがうようだがと注意されて読み違えたことに気がつくと、顔をまっかにして非常に恥じておどおどする。どうも失敬した失敬したと言い訳をする。なるべく藤野には読ませぬようにしたいとだれも思ったろうが、そういうわけにも行かぬのでやはり順番で読ませる。すると五回に一度は何かしら間違えてそのたびに非常に恥じて悲しい顔をする。そしてズボンのひざをかかえていっそう考え込むのである。こんなふうで二週間もおおかた過ぎ、もう引き上げて帰ろうという少し前であったろう。一日大雨がふって霧が渦巻き、仕事も何もできないので、みんな小屋にこもって寝ていた時、藤野の手帳が自分のそばに落ちていたのをなんの気なしに取り上げて開いて見たら、山におびただしいりんどうの花が一つしおりにはさんであって、いろんならく書きがしてあった。中に銀杏がえしの女の頭がいくつもあって、それから Fate という字がいろいろの書体でたくさん書き散らしてあった。仰向きに寝ていた藤野が起き上がってそれを見ると、青い顔をしたが何も言わなかった。 

九.楝树花

有一年夏天,我因为脑子不好,在乡下亲属的照料下,玩了大约有一个月。屋前清澈的小水沟发出叮咚声流淌着,狭窄的村间小道对面一侧,是一片绿油油的田地,对面可以看见昔日德川家族古城旧址的丘陵。老式屋顶的门廊近旁,高大的楝树伸展着茂密的树枝,为烈日当头的道路遮阴。路过的商人小贩常常在门前卸下担子,在门前溪流中洗脸,将湿手巾含在口中乘凉。有一天,我在酷暑中出门一看,箍桶匠正在树荫下的为吊水桶和木桶安箍。打扫干净的道路上,到处是削下来的青竹碎屑和刨花碎屑,楝树花撒了一地。箍桶匠是一位有着一脸黑麻子的怪癖男子,布手巾下面的汗衫里,露出黑黑的胸毛、强壮的手腕挥动着木槌。槌子的声音在对面的丘陵中回响着,响遍整个寂静的村子。稻田里,强烈的阳光耀眼地照射着,田野看上去似乎在酷暑中睡着了。朝着这边烟馆走来一个人,将行李卸在箍桶店旁边。他穿着老式样的、由于过于瘦小而胸前合不拢的小仓布西服,腰以下是日本式瘦筒裤绑腿,赤脚穿着草鞋。一顶旧礼帽一直盖到眉梢,脑袋剃得光光的,好像是个僧人。“今天又在捕鲣鱼吗?”开烟馆的搭话说。箍桶匠回答“哪能捕呢?这些日子即使捕,也都要用汽船装运到上游去,这儿的河口是排卵的。”一边说一边通通地敲着桶。正在门廊的房梁上筑巢的燕子从田野飞回来,又飞了出去。开烟馆的叼着烟袋嘴,很钦佩似的眺望着,说:“鸟类中再没有比燕子更让人钦佩了。”将前面搁置的话题又提了起来。说是村子里的老房子,燕子从去年开始筑巢,有一天主人对燕子戏言道:“您长年在我家借宿,偶尔也该送一个礼物给我,怎么样?”于是,第二年燕子回来的时候,正好赶上主人在吃饭,飞过膳食上面时,落下了一粒小小的树种。主人一点也没有注意,将它抛到了庭院里,马上在这里长出了奇妙的树木。不论是谁都要去看一看,这可是一棵从未听说的奇怪的树。在这棵树的成长过程中,树枝上也好,树叶上也好,都粘附着一大片令人作呕的毛虫,一看这也太不像话了,主人将这棵树拔起来,劈成烧洗澡水的引火柴。这时,城里的医生正好经过,也为这倒霉事而叹息。在问清了是怎么回事之后说,这好像是我国求之不得的麝香啊!他一个人说到这里,便煞有介事地吹着烟锅。箍桶匠一边砰砰敲着木桶,一边一声不吭地听着,朝我看了一下,露出奇怪的眼神问道:“那么,这所谓的麝香,是这树的效果呢,还是毛虫的效果呢?”“嗯,这……麝香还有许多种类嘛!”他这样回答,还说这是谁也弄不明白的事情。箍桶匠再怎么问,也得不到回答。敲木桶的声音在对面的丘陵中回响着,楝树花啪啦啪啦地散落在地上。

(明治四十一年十月,子规)

九 楝の花

一夏、脳が悪くて田舎の親類のやっかいになって一月ぐらい遊んでいた。家の前は清い小みぞが音を立てて流れている。狭い村道の向こう側は一面の青田で向こうには徳川以前の小さい城跡の丘が見える。古風な屋根門のすぐわきに大きな楝の木が茂った枝を広げて、日盛りの道に涼しい陰をこしらえていた。通りがかりの行商人などがよく門前で荷をおろし、門流れで顔を洗うたぬれ手ぬぐいを口にくわえて涼んでいる事がある。一日暑い盛りに門へ出たら、木陰で桶屋が釣瓶や桶のたがをはめていた。きれいに掃いた道に青竹の削りくずや鉋くずが散らばって楝の花がこぼれている。桶屋は黒い痘痕のある一癖ありそうな男である。手ぬぐい地の肌着から黒い胸毛を現わしてたくましい腕に木槌をふるうている。槌の音が向こうの丘に反響して静かな村里に響き渡る。稲田には強烈な日光がまぶしいようにさして、田んぼは暑さに眠っているように見える。そこへ羅宇屋が一人来て桶屋のそばへ荷をおろす。古いそして小さすぎて胸の合わぬ小倉の洋服に、腰から下は股引脚絆で、素足に草鞋をはいている。古い冬の中折れを眉深に着ているが、頭はきれいに剃った坊主らしい。「きょうも松魚が捕れたのう」と羅宇屋が話しかける。桶屋は「捕れたかい、このごろはなんぼ捕れても、みんな蒸気で上へ積み出すからこちらの口へははいらんわい」とやけに桶をポンポンたたく。門の屋根裏に巣をしているつばめが田んぼから帰って来てまた出て行くのを、羅宇屋は煙管をくわえて感心したようにながめていたが「鳥でもつばめぐらい感心な鳥はまずないね」と前置きしてこんな話を始めた。村のある旧家につばめが昔から巣をくうていたが、一日家の主人がつばめに「お前には長年うちで宿を貸しているが、時たまにはみやげの一つも持って来たらどうだ」と戯れに言った事があった。そしたら翌年つばめが帰って来た時、ちょうど主人が飯を食っていた膳の上へ飛んで来て小さな木の実を一粒落とした。主人はなんの気なしにそれを庭へほうり出したら、まもなくそこから奇妙な木がはえた。だれも見た事もなければ聞いた事もない不思議な木であった。その木が生長すると枝も葉も一面に気味の悪い毛虫がついて、見るもあさましいようであったので主人はこの木を引き抜いて風呂のたきつけに切ってしもうた。その時ちょうど町の医者が通りかかって、それは惜しい事をしたと嘆息する。どうしてかと聞いてみると、それはわが国では得がたい麝香というものであったそうな。ここまで一人でしゃべってしまってもっともらしい顔をして煙を輪に吹く。ポンポン桶をたたきながら黙って聞いていた桶屋はこの時ちょっと自分のほうを見て変な目つきをしたが、「そしてその麝香というのはその木の事かい、それともまた毛虫かい」と聞く、「ウーン、そりゃあその、麝香にもまたいろいろ種類があるそうでのう」と、どちらともわからぬ事をいう。桶屋はしいて聞こうともせぬ。桶をたたく音は向こうの丘に反響して楝の花がほろほろこぼれる。 

(明治四十一年十月、ホトトギス)

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