Part1 ERPパッケージの歴史と基本的な仕組みを理解する

これまでERP(Enterprise Resource Planning)パッケージにあまりなじみのない読者のために,Part1ではその定義,これまでの歴史や仕組みなど,基本的なポイントについて,解説していくことにしよう。

 1970年代,80年代の企業情報システムは,処理能力当たりのハードウエアコストが非常に高価だったために,企業内の業務処理をすべてカバーする情報システムを導入することは困難だった。このため,会計や給与計算といった必要不可欠なシステムから導入し,販売,購買,在庫管理などについては,大きな投資対効果が見込める業務から順にシステム化していくアプローチが一般的であった。こういったアプローチでは,必然的に“部門最適”が追求されるため,ユーザー部門の業務の省力化という観点では,大きな貢献を果たした。

 しかし,視点をユーザー部門から経営側に移すとどうだろう?

 例えば,直近数週間の営業利益を分析するケースを考えてみよう。まず,「会計的に正しい売上高」は,当然会計システムに存在しているはずだ。しかし,会計システム内に販売情報が存在しなければ,売上高の内訳を分析するために会計システムのデータと販売システムのデータを組み合わせる必要がある。もし2つのシステムのデータを組み合わせるタイミングが月末のバッチ処理だとすると,経営者は月半ばでは自社の売上高の分析ができない,ということになってしまう。

 仮に月半ばで,(多くの場合はExcelなどで)会計システムと販売システムのデータを組み合わせたレポートを作成するとしても,2つのシステムの処理タイミングが異なっている,別々にデータ入力を行っているといった理由で,2つのシステム間のデータの整合性がとれていなければ正しい分析はできない。実際,こうしたケースは多かった。

 こういった部門最適型のシステムを“サイロ型システム”と呼んだりするが,これが販売システムだけでなく,購買システム,在庫管理システム,生産管理システム,人事システムへと広がっていったとき,経営者は自分の会社で起きている正しいデータを見て意志決定していると言えるだろうか?たとえるなら,30分前の景色がフロントガラスに映し出され,間違った速度がメーター表示される車を運転しているようなもの---。これが,経営の視点から見たERP以前の企業情報システムの姿である(図1)。

図1●ERP以前の企業情報システムの姿
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最初から“全体最適”を目指す

 上で述べた部門最適型のシステムとは正反対に,最初から“全体最適”を目指し“経営に貢献できる”ことを目指した業務アプリケーションが,ERPパッケージである。

 そもそもERPとはEnterprise Resource Planningの略であり,本来は,企業における経営資源(ヒト・モノ・カネ)の総合的な管理と最適化計画を意味するコンセプト。MRP(Material Requirement Planning,後にMRP II=Manufacturing Resource PlanningIIに進化)から発展したものと言われている。“生産活動のための資材投入最適化”というコンセプトを企業の経営資源全般に拡張し,企業活動全般の最適化を図るのがERPというわけである。

 このERPというコンセプトを実現するために開発されたアプリケーションソフトウエアを,一般的に「ERPパッケージ」と呼ぶ(ただし,今日のビジネスの現場ではこの2つを厳密に区別して使い分けることはあまりない)。ERPパッケージは,その性質上,財務会計,販売管理,在庫管理,生産管理,人事給与といった,企業の基幹業務を司る情報システムを統合することになるため,「統合基幹業務パッケージ」と呼ぶこともある(図2)。

図2●ERPパッケージは,経営資源を最適化するというERPのコンセプトを実現するソフトである

ERPパッケージが浸透した理由

 数多くの問題が指摘されながらも,1980年代までの企業情報システムの中心は,あくまでも部門最適型のシステムだった。その流れが大きく変わり,日本を含む世界中の多くの企業でERPパッケージが本格的に採用されるようになった一つのきっかけが,1990年代前半の欧米におけるBPR(Business Process Reengineering,業務プロセス改革)ブームである。

 BPRは競争力を高める新たな経営改革手法として注目され,多くの企業が部門最適型の業務プロセスからの脱却,全社レベルの抜本的なプロセスの再構築を進めた。同時に,標準化された業務プロセスを大規模に展開し生産性を向上させるための,新たなIT基盤が必要とされた。

 一方,テクノロジの変化に目を転じると1990年代はメインフレームからオープンシステムへの移行が一気に進んだ時期であり,「2000年問題」(2000年になるとコンピュータが誤作動する予想されたこと。Y2K問題とも呼んだ)を視野に入れた,企業情報システムの刷新ニーズが高まった時期でもある。

 独SAPの「SAP R/3」や米PeopleSoftの「PeopleSoft」,米J.D.Edwardsの「OneWorld」,米Oracleの「Oracle Applications」,オランダBaanの「BaanERP」といった各種ERPパッケージは,こうした刷新ニーズを的確にとらえ,1990年代には世界中で“第一次ERPブーム”と呼べるような,ERPパッケージの導入ラッシュが起こった。

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