厨房

吉本ばなな


作者简介:吉本芭娜娜,于1964年出生,东京人,在日本大学艺术系文艺科毕业,二十三岁时以《厨房》一文获日本“海燕”新人文学奖,后来又陆续获“泉镜花”、“山本周五郎”等文学大奖。到1989年后更是迅速崛起,书出来一本轰动一本,是当下日本最著名的畅销女作家。


厨房


私がこの世で一番好きな場所は台所だと思う。


这个世界上,我想,我最喜欢的地方是厨房。


どこのでも、とんなのでも、それが台所であれば食事を作る場所であれば私はつらくない。できれば機能的でよく使い込んであるといいと思う。乾いた清潔なふきんが何枚もあって白いタイルがぴかぴか輝く。


无论它在那里,式样如何,只要是厨房,是做饭的地方,我就不会感到难过。可能的话,最好功能齐备,使用方便。备有好多块干爽整洁的抹布,还有洁白的瓷砖,熠熠生辉。


ものすごく汚い台所だって、たまらなく好きだ。

床に野菜くずが散らかっていて、スリッバの裏が真っ黒になるくらい汚いそこは、異様に広いといい。ひと冬軽い越せるような食料が並ぶ巨大な冷蔵庫がそびえ立ち。その銀の扉に私はもたれかかる。油が飛び散ってガス台や、さびのついた包丁からふと目を上げると、窓の外には淋しく星が光る。


肮脏无比的厨房,我也喜欢得不得了。

即使地面上落满了碎菜屑,邋遢到能把拖鞋底磨得黑乎乎的,只要异常宽敞,就可以。里面摆放一台巨大的冰箱,塞满足够度过一个冬天的食物。我依在银色的冰箱门边,目光越过溅满油渍的灶台,生锈的菜刀,蓦然抬头,窗外星星在寂寥地闪烁。


私と台所が残る。自分しかいないと思っているよりは、ほんの少しもしな思想だと思う。

本当に疲れ果てた時、私はよくうっとりと思う。いつか死ぬ時がきたら、台所で息絶えたい。ひとり寒いところでも、誰かがいてあたたかいところでも、私はおびえずにちゃんと見つめたい。台所なら、いいなと思う。


剩下了我和厨房,这种感念属于,认为天地间,只剩下我孤单一人。

为食疲惫不堪的时候,我常常出神地想,什么时候死亡降临了,我希望是在厨房里结束呼吸。无论是孤身一人,死在严寒中,还是在他人的陪伴下,温暖地死去。我都想无所畏惧地直接面对,只要在厨房里就好。


田辺家に拾われる前は、毎日台所で眠っていた。

どこにいてもなんだか寝苦しいので、部屋からどんどん楽なほうへと流れていったら、冷蔵庫のわきがいちばんよく眠れることに、ある夜明け気づいた。


在被田边家收留之前,我每天都睡在厨房里。

无论在什么地方,我都难以入眠。因此,我搬出卧室,不断在家中寻找更舒适的场所。直到一天清晨,我发现,在冰箱旁边,睡得最安稳。


私、桜井みかげの両親、そろって若死にしている。そこで祖父母が私を育ててくれた。中学校へ上げる頃、祖父が死んだ。そして祖母と二人でずっとやってきたのだ。

先日、なんと祖母が死んでしまった。びっくりした。


我,樱井美影,父母双双早逝,一直跟着爷爷奶奶生活。上中学的时候,祖父去世了,只剩下我和奶奶两个人相依为命。

前几天,奶奶竟也离我而去,这给了我一记重创。


家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、嘘に見えてくる。生まれ育った部屋で、こんなにちゃんと時間が過ぎて、私だけがいるなんて、驚きだ。

まるでSFだ。宇宙の闇だ。


这些曾活生生存在过的家人,一个个消失在岁月里,最后只剩下我一个人,留在这世上。一想到这些,就会觉得眼前存在的一切,都是如此虚幻缥缈。这所房子,我生于此,长于此,而时间这样无情地流走,如今,竟只有我一人了,这念头不断折磨我。

简直就像一部科幻小说,我进入了宇宙黑洞。


葬式がすんでから三日は、ぼうっとしていた。

涙があんまり出ない飽和した悲しみに伴う、柔らかな眠けをそっとひきずっていって、しんと光る台所にふとんを敷いた。ライナスのような毛布にくるまって眠る。冷蔵庫のぶ一んという音が、私を孤独な思考から守った。そこでは、結構安らかに長い夜が行き、朝が来てくれた。


葬礼过后的三天时间,我一直处于浑浑噩噩之中。

过度悲伤,使我的泪水干涸,极弱的倦意或者悲哀,悄悄向我袭来,厨房里,闪着寂静的微光。我铺好褥子,像漫画里的兰娜斯那样,紧紧裹着毛毯睡下。冰箱发出的微微声响陪伴着我,使我免收孤独煎熬。我就这样度过了静谧的长夜,清晨来临了。


ただ星の下で眠りたかった。

朝の光で目覚めたかった。

それ以外のことは、すべてただ淡々と過ぎていった。


我想在星光下睡眠。

我想在晨光中醒来。

其余的一切,都从我身边悄然滑过,了无痕迹。


しかし、そうしてばかりもいられなかった。現実はすごい。

祖母がいくらお金をきちんと残してくれたとはいえ、ひとりで住むにはその部屋は広すぎて、高すぎて、私は部屋を探さねばならなかった。


可是,我没法一直这样下去,现实是残酷的。尽管奶奶给我留了些钱,但这所房子一个人住,还是太大了,太贵了。我不得不另觅住处。


仕事なく、アパXX情報を買ってきてめくってみたが、こんなに並ぶたくさんの同じようなお部屋たちを見ていたら、くらくらしてしまった。引っ越しは手間だ。パワーだ。

私は、元気がないし、日夜台所で寝っていたら体のふしぶしが痛くて、このどうでもよく思える頭をしゃんとさせて、家を見にいくなんて!

荷物を運ぶなんで!電話を引くなんて!


无奈,我买了房屋租定方面的报刊翻看,可是上面密密麻麻登载着的那些房子,看起来都一模一样,看得我头昏脑胀。搬家可不是省心事,需要体力呀。而由于我精神萎靡不振,又没日没夜住在厨房的缘故,弄得浑身关节酸痛,对任何事都抱着一副无所谓的态度。这样的我,又如何能让大脑恢复正常运转,去看房,去搬运行李,去移电话线呢?


と、いくらでもあげられる面倒を思いついては絶望してごろごろ寝ていたら、奇跡がボタもちのように訪ねてきたその午後を、私はよく覚えている。

ピンポンと不意にドアチャイムが鳴った。

薄曇りの春の午後だった。私は、アパXX情報を横目で見るのにすっかり飽きて、どうせ引っ越すならと雑誌をヒモでしばる作業に専念していた。あわてて半分寝巻きみたいな姿で歩り出て、何も考えずにドアのカギをはずしてドアを開いた。(強盗でなくてよかった)そこには田辺雄一が立っていた。


面对眼前罗列的一大堆麻烦,我陷入绝望,躺在床上,辗转反侧。而就在这时,天上掉下了馅饼,奇迹悄然而至,那个午后发生的事,我仍然历历在目。

门铃突然响了。

那是一个半阴的春日的午后。我冷眼看着满地的房屋广告,满心厌烦。我想,反正都是要搬家的,索性着手把报刊用绳子捆扎起来。听到门铃声,身上穿着睡衣,慌乱地跑去去,然后不假思索地开锁开门。喔,幸亏不是打劫的。站在那里的,是田边雄一。


「先日はどうも」

と私は言った。葬式の手伝いをたくさんしてくれた、ひとつ歳下のよい青年だった。聞け「ば同じ大学の学生だという。今は私h大学を休んでいた。

「いいえ。」彼は言った。「住む所、決まりましたか?」

「まだ全然」

私は笑った。


“这几天,给你添麻烦了。”我说。

他比我小一岁,是个很不错的年轻人。葬礼的时候,帮了很多忙。听说,跟我是同一所大学的,不过我现在已经休学了。

“不用客气”,他说。“住的地方,定了吗?”

“还早着呢。”我笑笑。


「やっぱり。」

「上がってお茶でもどうですか?」

「家。今、出かける途中で急ぎですから。」彼は笑った。「伝えるだけちょっと、と思って。母親と相談したんだけど、しばらっくうちにきませんか。」

「え?」

私は言った。

「とにかく今晩、七時頃うちに来て下さい。これ、地図。」

「はあ。」私はぼんやりそのメモを受け取る。

「じゃ、よろしく。みかげさんが来てくれるのを僕も母も楽しみにしてるから。」

彼は笑った。あんまり晴れやかに笑うので見慣れた玄関に立つその人の、瞳がぐんと近く見えて、目が離せなかった。ふいに名を呼ばれたセいもあると思う。


“我想也是。”

“进来喝杯茶吧?”

他笑了笑说:“不了,我还有急事。只是顺便过来告诉你,我和我妈商量好了,你到我们家来住,怎么样?”

“什么?”

“不管怎么说,今晚七点,你先来一趟我家吧,这是地图。”

“哦。”我茫然地接过便条。

“那就说好了,我和妈妈都盼望着美影你来呢!”

他笑起来,就站在我熟悉的玄关处,笑容是那么灿烂。而他的双眸,也仿佛一下子变得距离我那么近,使我无法挪动视线,可能也是因为突然听到,有人直呼我的名字的缘故吧。


「…じゃ、とにかくうかがいます。」

悪くいえば、魔がさしたというのでしょう。しかし、彼の態度はとても“クール”だったので、私は信じることができた。目の前の闇には、魔がさす時いつもそうなように、一本道が見えた。白く光って確かそうに見えて、私はそう答えた。

彼は、じゃ後で、と言っえ笑って出ていった。


“……那,到时候就打扰了!”

说严重点,可能是我着了魔吧。可是,他的态度那么酷,使我信了他。也如同着魔的人一样,我眼前的黑暗中,出现了一条大道,一条光芒四射,的的确确的光明之路,让我作了那样的答复。

他说声再见,笑着离开了。


私は、祖母の葬式までほとんど彼をしらなかった。葬式の日、突然田辺雄一がやってきた時、本気で祖母の愛人だったのかと思った。焼香しながら彼は、泣きはらした瞳を閉じて手を震わせ、祖母の遺影を見ると、またぽろぽろと泪をこぼした。


在奶奶的葬礼之前,可以说我并不认识他。直到葬礼的那一天,田边雄一突然出现的时候,我当真还在暗自心想,他不会是奶奶的情人吧?烧香的时候,他闭着哭肿了的眼睛,手发颤,而一抬头,看到奶奶的遗像,泪珠就噗漱漱地落下来。


私はそれをみていたら、自分の祖母への愛がこの人よりも少ないのでは、と思わず考えてしまった。そのくらい彼は悲しそうに見えた。

そして、ハンカチで顔を押さえながら、

「なにか手伝わせて下さい。」

と言うので、その後、いろいろ手伝ってもらったのだ。


他看起来是那么悲伤,都不禁使我暗自惭愧,自己对奶奶的爱,是不是还不及眼前的这个人?上完香,他用手帕捂着脸,对我说:

“让我来帮帮忙吧。”

就这样,之后很多事,都是他来帮我料理的。


田辺、雄一。

その名を、祖母からいつ聞いたのかを思いたのかを思い出すのにかなりかかったから、混乱していたのだろう。

彼は、祖母の行きつけの花屋でアルバイトしていた人だった。いい子がいて、田辺くんがねえ、今日もね……というようなことを何度も耳にした記憶があった。切り花が好きだった祖母は、いつも台所に花を絶やさなかったので、週に二回くらいは花屋に通っていた。そういえば、一度彼は大きな鉢えを抱えて祖母の後ろを歩いて家に来たこともあった気がした。


田边雄一。

奶奶什么时候提起过这个名字呢?我费了好大力气才回想起来,大脑真是乱得一团糟。

他在奶奶常去的花店打工,记得奶奶常常说起,花店里有个可爱的男孩叫田边,今天又怎么怎么了之类的话。奶奶很喜欢插花,厨房里没断过鲜花。她每周至少去两次花店,说起来,我还记得有一次,他抱着一大棵盆栽,步行跟在奶奶身后到过我家。


からは長い手足を持った、きれいな顔立ちの青年だった。素姓はなにも知らなかったが、よく、ものすごく熱心に花屋で働いているのをみかけた気もする。ほんの少し知った後でも彼のその、どうしてか“冷たい”印象は変わらなかった。ふるまいや口調がどんなにやさしくても彼は、ひとりで生きている感じがした。つまり彼はその程度の知り合いにすぎない、赤の他人だったのだ。


他四肢修长,容貌俊秀,虽然并不清楚他的底细,可印象中,好像他常热心的在花店里忙碌着。不过,即便在对他稍微有点了解之后,不知为什么,他给我的勇猛的印象,也没有改变。不管言行举止怎样温和友善,他始终给人一种疑似独立的感觉。就是说,我跟他的关系仅止于此,可以说,毫无瓜葛。


夜は雨だった。しとしとと、暖かい雨が街を包む煙った春の夜を、地図を持って歩いて行った。

田辺家のあるそのマンジョンは、うちからちょうど中央公園をはさんだ反対側にあった。公園を抜けていくと、やの緑の匀いでむせかえるようだった。濡れて光る小路が虹色に映る中を、ばしゃばしゃ歩いていった。


晚上下起了雨,短雨淅淅沥沥,笼罩着街市。我拿着地图,走在雨雾迷茫的春夜里。田边家的大厦和我家正好隔着一个中央公园,穿过公园,夜色中绿叶绿草的气息扑面而来。被雨打湿的小路,反射着彩虹般的光芒,我吧嗒吧嗒从上面走过。


私は、正直言って、呼ばれたから田辺家に向かっていただけだった。なーんにも、考えてはいなかったのだ。

その高くそびえるマンションを見上げたら彼の部屋がある十階はとても高くて、きっと夜景がきれいに見えるんだろうなと私は思った。

エレビーターを降り、廊下に響き渡る足音をきにしながらドアチャイムを押すと雄一がいきなりドアを開けて、

「いらっしゃい。」

と言った。


说实话,我去田边家,是因为他叫我去,其他的什么,我都没有考虑过。他家就在那座高楼里,是十楼。我抬头仰望,十楼那么高,那里看到的夜色,想必很美吧。

走出电梯,楼道里回荡着我的脚步声。我刚按门铃,门一下子开了。

雄一出现在门口,对我说:“请进。”


おしゃまします、と上げったそこは、実に妙な部屋だった。

まず、台所へ続く居間にどかんとある巨大なソファに目がいった。その広い台所の食器棚を背にして、テーブルを置くでもなく、じゅうたんを敷くでもなくそれはあった。ベージュの布張りでCMに出てきそうな、家族みんなで座ってTVを観そうな、横に日本で飼えないくらい大きな犬がいそうな、本当に立派なソファだった。


我说声打扰,走了进去,这房子真的很奇特。

首先映入眼帘的,是一张巨大的沙发。摆在与厨房相邻的客厅里,它就那样摆着,背对宽敞的厨房里的食品橱。前面既没放茶几,也没铺地毯。驼色的布艺沙发套,非常气派,就像常常出现在广告里的那种。一大家人围坐在一起看电视,旁边趴着一条日本罕见的大狗。


ベランダが見える大きな窓の前には、まるでジャングルのようにたくさんの植物群が鉢やらプランターやらに植わって並んでいて、家中よく見ると花だらけだった。至る所にある様々な花びんに季節の花々が飾られていた。

「母親は今、店をちょっと抜けて来るそうだから、よかったら家の中でも見てて。案内しようか?どこで判断するタイプ?」

お茶を入れながら雄一が言った。

「なにを?」

私がその柔らかなソファにすわって言うと。


透视得到阳台大玻璃窗前,摆满了一盆盆,一罐罐花草,简直就像热带丛林。细看看,家里到处都是花,每个角落都摆放着各式各样的花瓶,里面装饰着时令鲜花。

“我妈说,她一会儿就抽空从店里回来。你先随便看看,要我做向导吗?你喜欢从哪儿做判断?”

雄一一边泡茶一边说。

“判断什么?”

我在柔软舒服的沙发里坐下,问道。


「家人と住人の好みを。トイレ見るとわかるとか、よく言うでしょ。」彼は淡々と笑いながら、落ち着いて話す人だった。

「台所。」

と私は言った。

「じゃ、ここだ。なんでも見てよ。」

彼は言った。

私は、彼がお茶を入れている後ろへ周り込んで台所をよく見た。


“家庭,住户的喜好,不是说,只要看看厕所就会明白之类的吗?”

他淡淡地笑着,慢条斯理地作解释。

“厨房。”我说。

“厨房在这里,随便看啊。”他说。

我绕到正在冲茶的雄一身后,仔细观察起他家的厨房来。


板張りの床に敷かれた感じのいいマット雄一はいているスリッパの質の良き――必要最小限のよく使い込まれた台所用品がキチンと並んでかかっている。シルバーストーンのフライ「アンとドイツ製皮むきはうちにもあった。横着な祖母が、楽してするする皮がむけると喜んだものだ。


地板上,铺着的门垫看起来质感不错,雄一脚上穿着的拖鞋质地优良,一切日常所须的最完备的厨房用品,整整齐齐地摆放在那里,还有和我们家一样,也是银色涂层的平底煎锅,和德国产的削皮器。奶奶爱偷懒,皮刨的轻松顺畅,她就很高兴。


小さな蛍光灯に照らされた、しんと出番を待つ食器類、光るグラス、ちゃっと見ると全くブラバラでも、妙な品のいいものばかりだった。特別に作るものおための…たとえばどんぶりとか、グラタン皿とか、巨大な皿とか、ふたつきのビールジョツキとかがあるのも、なんだかよかった。小さな冷蔵庫も、雄一がいいと言うので開けて見たら、きちんと整っていて、入れっぱなしのものがなかった。

うんうんうなずきながら、見てまわった。いい台所だった。私は、この台所おを一目でとても愛した。


在小荧光灯的照射下,餐具像在静待着出厂,玻璃杯闪闪发光,一眼看上去杂乱无章,可细看起来,却全是精品。每件都有独特的用途,有吃盖浇饭用的,有吃烤菜用的,还有硕大的盘子,带盖的啤酒杯,感觉真好。得到雄一的允许,我打开了小冰箱,里面东西整齐有序,没什么是随手塞进去的。

我忍不住点着头,四下看看。这个厨房,我第一眼就深深爱上了它。


ソファに戻って座ると、熱いお茶が出た。

殆んど初めての家で、今まであまり会ったことのない人と向かい合っていたら、何だかすごく天涯孤独な気持ちになった。

雨に覆われた夜景が闇ににじんでゆく大きながらす、に映る自分と目が合う。

世の中に、この私に近い血の者はいないし、どこへ行って何をするのも可能だなんてとても豪快だった。

こんなに世界がぐんと広くて、闇はこんなにも暗くて、その果てしない面白さと寂しさ私は最近初めてこの手でこの目で触れたのだ。

今まで、片目をつふって世の中を見てたんだわ、と私は、思う。

「どうして、私を呼んだんでしたっけ?」

私はたすねた。


回到沙发坐下,热茶已经泡好了。

一旦来到这个几乎完全陌生的家,面对之前并不熟识的人,我不觉生出无尽的天涯孤独客的感伤来。

被雨包裹的夜景,慢慢地渗透进黑夜里,抬起头,眼睛迎上对面玻璃镜上的自己。

我在世上,已经没有亲人了。去哪里,做什么,都有了可能。这种感觉,是多么畅快淋漓啊。世界如此的广袤无涯,夜色如此的深邃,给我带来漫无边际的幻想与孤寂,这种情感,我也是在最近才伸手触摸,睁眼细瞧。在这以前,我是闭着一只眼睛在看世界啊。

“为什么要叫我来呢?”我问。



「困ってると思って。」親切に目を細めて彼は言った。「おばあちゃんには本当にかわいがってもらったし、このとおりうちには無駄ナスピースが結構あるから。あそこ、出なきゃいけないんでしょう?もう。」

「ええ、今は大家の好意で立ちにきを引き延ばしてもらってたの。」

「だから、使ってもらおうと。」

と彼は当然のことのように言った。


“我想,你正在为难吧?”他眯起眼,亲切地说。“你奶奶一直很疼我,而我家你也看到了,有那么多地方闲着,再说,你那儿也得搬出去吧?”

“嗯,房东好心,让我可以拖些日子。”

“所以,就搬过来吧。”他一副理所当然的神情。


彼のそういう態度が決してひどく暖かくも冷たくもないことは、今の私とてもあたためるように思えた。なぜだか、泣けるくらいに心にしみるものがあった。そうして、ドアがチャガチャと開いて、ものすごい美人が息せききてって歩り込んできたのは、その時だった。

私はびっくりして目を見開いてしまった。かなり歳は上そうだっあが。その人は本当に美しぁった。日常にはちょっとありええない服装と濃い化粧で、私は彼女のお勤めが夜のものだとすぐに理解した。

「桜井みかげさんだよ。」

と雄一が私を紹介した。


他的这种既不过分热情,也不过分冷淡的态度,对于现在的我来说,是异常的温暖。我有种莫名的感动,忍不住想哭。就在这时,门稀拉哗啦地开了。一个极美的妇人,气喘吁吁地跑了进来。

我吃了一惊,不禁张大了眼睛。她虽说有些年纪了,可的确非常美丽,看她的穿着,并不是生活中常见的服饰,又化着浓妆。我立刻明白了,她肯定是做夜晚生意的。

“这就是樱井美影。”

雄一介绍说。


彼女ははあはあ息をつきながら少しかすれた声で、

「初めまして。」と笑った。「雄一の母です。えり子と申します。」

これが母?という驚きい以上に目が離せなかった。肩までのさらさらの髪、切れ長の瞳の深い輝き、形のよう唇、すっと高い鼻すじ――そして、その全体からかもしだされる生命力の揺れみたいな鮮やかな光――人間じゃないみたいだった。こんな人見たことない。

わたすがぶしつけなまでにじろじろみつめながら、

「初めまして。」

とほほえみ返すのがやっとだった。


她呼呼喘着气,笑着说:

“初次见面。我是雄一的母亲,叫惠里子。”

这就是他的母亲?我惊讶之极,盯住她看。她有着一头柔顺的披肩长发,细长的双眸深邃,且身材动人,嘴唇形状优美,鼻梁高耸——全身上下洋溢着摄人心魄的生命力的光辉。简直不像真人。我从没见过这样的人。我就这样一直冒冒失失,目不转睛地盯着她看了半晌,才终于回过神。向她一笑,说:“请多关照!”


「明日からよろしくね。」と彼女は私にやさしく言うと雄一に向き直り「ごめんね、雄一。全然抜けらんないのよ。今、朝なら時間とれるから、みかげさんには止まってもらってね。」

とせかせか言い、赤いドレスをひるがえして玄関に歩っていった。

「じゃ、車で送ってやるよ。」

と雄一が言い、

「ごめんなさい、私のために。」

と私は言った。

「いやー、まさかこんなに店が混むなんて思ってなかったのよ。こちらこそごめんなさいね、じゃ、朝ね!」


“以后,请多关照!”她柔声对我说。接着,又转向雄一,对他说:“不好意思,雄一,一点儿抽不出空来。我这是借口说上厕所才冲过来的,到早晨才能有空。你让美影小姐今晚住下吧。”她急急忙忙说完,红裙飞扬着朝门口跑去。

“我开车送你。”雄一说。

“对不起,为了我?”我说。

“那里,没想到店里会这么忙,我才不好意思呢。那,早上见了!”


高いビールで彼女は駆けてゆき、雄一が、

「TVでも見て待ってて!」と言ってその後を追ってゆき、私はぽかんと残った。

――よくよく見れば確かに歳相応のしわとか、少し悪い歯並びとか、ちゃんと人間らしい部分を感じだ。それでも彼女は圧倒的だった。もう一回会いたいと思わせた。心の中に暖かい光が残像みたいにそっと輝いて、これが魅力っていうものなんだわ、言葉が生きた姿で目の前に新鮮にはじけた。大げさなんじゃなくて、それほど驚いた出会いだったのだ。


她脚登着高跟鞋,咚咚冲向门口。

“你看看电视,等我一会儿。”说完,雄一也追出去。

一下子,只留了我一个人。仔细观察的话,会发现她身上也有着常人的缺憾,比如脸上与年龄相称的皱纹,牙齿也有些参差不齐。尽管如此,她还是魅力四射,使人想再次见到她。心中暖融融的光像余照般,悄然散发着光芒。这就是所谓的魅力吧。这个词,如此鲜活生动地展现在我的面前,我就如同第一次切身感受到水一词含义的海轮。一点儿也没有夸张,这次会面就是带给我如此大的震撼。


車のキーをガチャガチャ鳴らしながら疎水地は戻ってきた。

「十分しか抜けられないなら、電話入れればいいと思うんだようね。」

と叩きで靴を脱ぎながら彼は言った。

私はソファにすわったまま、

「はあ。」

と言った。

「みかげさん、うちの母親にびびった?」

彼は言った。「うん、だってあんまりきれいなんだもの。」

「だって。」雄一が笑いながら上げってきて、目の前の床に腰を下ろして言った。「整形してるんだもの。」

「え。」私は平静を装って言った。「どうりで顔の作りが全然似てないと思ったわ。」

「しかもさあ、わかった?」本当におかしくてたまらなそうに彼は続けた。「あの人、男なんだよ。」


外面车钥匙叮叮当当响起来,雄一回来了。

“只能离开十分钟,打个电话不就行了。”他在水泥地上边脱鞋边说。

我依旧坐在沙发上,喔了一声。

“美影,你被我妈吓住了吧?”

“嗯,可她实在太漂亮了。”

“不过,她整过容呢。”

“喔,怪不得说脸型一点也不像呢。”我故作平静地说。

“还有,看出来了吗?那个人,是男的呢。”


今度は、そうはいかなかった。私は目を見開いたまま無言で彼を見つめてしまった。まだまだ、冗談だって、という言葉をずっと待てると思った。あの細い指、しぐさ、身のこなしが?あの美しい面影を思い出して私は息をのんで待ったが、彼はうれしいそうにしているだけだった。

「だって。」私は口を開いた。「母親って、母親って言ってたsじゃない!」

「だって、実際に君ならあれを父さんって呼べる?」

彼は落ち着いてそう言った。それは、本当にそう思えた。すごく納得のいく答えだ。


这下我无法继续装下去了。我张大眼睛,无言的注视着他,想等着他说出,没有的事儿,开玩笑吧?那么优雅的手指,言行举止,美丽的容貌,怎么可能?我回想起那张美丽的面孔,屏气凝神地等待。可他还是收不住笑意。

“可是,你不是叫她妈妈,妈妈的吗?”我开口说。

“不过,要是换成你,你能叫那种人父亲吗?”

他语气很平静,的确如此。这是一个完全可以令人认同的回答。


「えり子って、名前は?」

「うそ。ほんとうは雄司っているみたい。」

私は、本当に目の前真っ白くみえるようだった。そして、話しを聞く態度にやっといれたので、たずねた。

「じゃあ、あなたを産んだのは誰?」

「昔は、あの人も男だったんだよ。」彼は言った。「すごく若い頃ね。それで結婚していたんだよね。その相手の女性が僕の本当の母親なんだ。」

「どんな…人だったのかしら。」

見当がつかなくて私は言った。

「僕も覚えてないんだ。小さい頃に死んじゃってね。写真あるけど、見る?」

「うん。」

私が頷くと彼は自分のカバンをすわっあままずるずるたぐり寄せて、札入れの中kら古い写真を出して私に手渡した。

なんともいえない顔の人だった。短い髪、ちいさな鼻。奇妙な印象の歳がよくわからない女性の…私が黙ったままでいると、

「すごく変な人でしょう。」

と彼が言い、私は困って笑った。



“惠利子,那么名字呢?”

“假的。原来好像叫雄司。”

我眼前一片空白,好久才恢复平静。问他:

“那,是谁生下的你?”

“过去,他也是个真正的男人。那还是在他很年轻的时候,他结过婚,和他结婚的那个女人,是我真正的母亲。”他说。

“她是个什么样的人呢?”

“我也记不清了,在我很小的时候她就死了。有照片,要看吗?”

“哦。”我点点头,他坐在那里,探身拉过自己的皮包。从钱包里掏出一张旧照片递给我。

很难形容她的长相。短头发,鼻子眼睛都小小的,给人感觉很怪,看不出年龄。看我默不出声,他说:

“样子很怪吧?”

我不知如何回答,笑了笑。


「さっとのえりこさんはね、この写真の母の家に小さい頃、なにかの事情で引き取られて、ずっと一緒に育ったそうだ。男だった頃でも顔だちがよかったからかなりもてたらしいけど、なぜかこの変な顔の。」彼は微笑んで写真を見た。「お母さんにものすごく執着してねえ恩を捨ててかけおうしたんだってさ。」

私は頷いていた。


“刚才那个惠里子,据说由于什么变故,从小就被我妈家里收养,他们俩一直在一起长大。还是男孩的时候,他也很帅,很讨女孩喜欢。可不知道,怎么会喜欢这样长相的我妈。”他微笑着看了看照片。“说是非她不娶。结果竟然不顾父母的养育之恩,一起私奔了呢。”

我点了点头。


「この母が死んじゃった後、えり子さんは仕事を辞めて、まだ小さな僕を抱えてなにをしよか考えて、女になることに決めたんだって。

もう、誰も好きになりそうにないからってさ。女になる前はすごい無口な人だったらしいよ。半端なことが嫌いだから、顔からなにからもうみんな手術しちゃってさ、残りの金でその筋の店をひとつ持ってさ、僕を育ててくれたんだ。女手人っでって言うかの?これも。」

彼は笑った。

「す、すごい生涯ね。」

私は言い、

「まだ生きてるって。」

と雄一が言った。

信用できるのか、何かまだひそんでいるのか、この人たちのことは聞けば聞くほどよくわからなくなった。

しかし、私は台所を信じた。それに、似ていないこの親子には共通点があった。笑った顔が神腹仏みたいに輝くのだ。私は、そこがとてもいいと思っえいたのだ。


“我妈死后,惠里子他把工作辞了。那时候,我还很小,他抱着我想,今后怎么办呢?后来就决定说,做个女的吧。说是反正今后再也不会喜欢别的女人了。在变形之前,他可是个沉默寡言的人哪。他讨厌半途而废,索性从头到脚做了手术。然后用余下来的钱,开了家那方面的店养活我。这是不是又当爹又当妈。”他笑了。

“真,真是不寻常的一生哪。”我说。

“他活得很有劲儿。”雄一说。

听着他们的故事,我越发迷惑。是否可以信赖他们?抑或其中又有什么隐情?

不过,我信任厨房。而且,这两个并不相似的母子有一个共同点,那就是有着同样神佛般灿烂的笑容。这一点,很合我心意。


「明日の朝は僕いないから、あるものはなんでも使っていいよ。」

眠そうな雄一が毛布やら寝巻きやらを抱えて、シャワーの使い方や、タオルの位置を説明していった。

身の上話(すごい)を聞いた後、あんまりちゃんと考えずに雄一とビデオを見ながら花屋の話とか、おばあちゃんの話とかをしているうちに、どんどん時間が過ぎてしまったのだ。今や、夜中の一時だった。そのソファは心地良かった。一度かけると、もう二度と立ち上がれないくらいに柔らかくて深く広かった。

「あなたのお母さん。」さっき私は言った。

「家具のところでこれにちょっとすわってみらた、どうしても欲しくなって買っちゃったんじゃない?」

「大当たり。」彼は言った。「あの人って、思いつきだけで生きてるからね。それを実現する力があるのが、すごいなと思うんだけど。」

「そうよね。」

私は言った。

「だから、そのソファは、当分君のものだよ。君のベッドだよ。」

彼は言った。「使い道があって本当に良かった。」

「私。」私はかなりそっと言ってみた。「本当にここで眠っていいの?」

「うん。」

彼はきっぱり言った。

「…からじけない。」

と私は言った。

彼は、ひととおりの説明を終えるとおやすみと言って自分の部屋へ戻っていった。


“明天早上我不在,家里的东西随便用吧。”

满脸倦容的雄一抱来毛毯啦,睡衣啦,一大堆东西。向我一一说明浴室的使用方法,毛巾的位置等。

听完他惊人的身世介绍,我还没来得及细细消化,就和他一起一边看着电视,一边闲聊起来。说说花店,说说我奶奶,时间就这样在不知不觉间飞快地过去。看看表,已经半夜一点了。

这架沙发坐起来真舒服,既松软,又宽敞,感觉一坐下去,就再也不想站起来。

“刚才我还说,一定是你母亲呀。”我说,“在买家具的那儿坐了坐了这架沙发,就忍不住一定要买下这张沙发的吧?”

“猜对了。”他说,“那个人,总是随心所欲地过日子。不过,有能力实现,也不很简单哪。”

“是啊,那么,这张沙发,暂时就归你了,就当你的床吧。能派上用处,真是不错。”

“我,我真的可以睡在这里吗?”我轻轻地说。

“嗯。”他干脆地说。

“感激不尽!”我说。

就这样,他向我作了一番大致的说明后,道了声晚安,回房去了。


私も眠かった。

人の家のシャワーを浴びながら、自分は何をしてるのかなと久しぶりに疲れが消えてゆく熱い湯の中で考えた。

借りた寝巻きに着替えて、新とした部屋に出ていった。ペタペタとは出しで台所をもう一回見に行く。やはり、よい台所だった。

そして、今宵私の寝床となったそのソファにたどり着くと、電気を消した。

窓辺で、かすかな明かりに浮かぶ植物たちが十階からの豪華な夜景にふちどられてそっと

息づいていた。夜景――もう、雨は上げって湿気を含んだ透明な大気にきらきら輝いて、それはみごとに映っていた。

私は毛布にくるまって、今夜も台所のそばで眠ることがおかしくて笑った。しかし、孤独がなかった。私はまっていたのかもしれない。今までのことも、これからのこともしばらくだけの間、忘れられる寝床だけを待ち望んでいたのかもしれない。となりに人がいては淋しさが増やすからいけない。でも、台所があり、植物がいて、同じ屋根の下にはひとがいて、静かで…ベストだった。ここは、バストだ。

安心してわたしは眠った。



我也困了,洗了别人家的淋浴,在久违的带走了我疲乏的热水中,我陷入了沉思。自己在做什么呢?

换上借来的睡衣,来到悄无声息的房中,我光着脚,吧嗒吧嗒又一次走进厨房看了看。这真是个令人满意的厨房。

随后,我走向我今晚的床的那张沙发,关上灯。

窗边,微光中浮现出一株株植物,在那儿静静地呼吸,从十楼俯瞰豪华夜景,为它们镶了一道边。雨已经停了,夜景在包含着湿气的透明的空气中熠熠生辉,美好至极。

我裹着毛毯,想起今晚竟也睡在厨房旁边,觉得有点好笑。然而,我没有孤独之感,这也许,就是我一直在等待的吧?一张床,一张可以使我短暂地忘记往事,忘记将要面对的床。我所期待的,也许仅此而已。身旁不要有人,那会加剧孤独。可是,这里有厨房,有植物,有人同我在同一屋檐下,又安安静静的,没有比这更好的了。这里,无可挑剔。

我安然地睡着了。


2021.5.25.

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