第７課季節感を味わう日本料理

第(だい)７課(か)　季節感(きせつかん)を味(あじ)わう日本料理(にほんりょうり)

日本列島(にほんれっとう)は春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)の別(べつ)がはっきりしていて、それぞれの季節(きせつ)で産物(さんぶつ)が異(こと)なります。それらをおいしく食(た)べるには、材料(ざいりょう)と調理法(ちょうりほう)に季節感(きせつかん)を出(だ)すこと大切(たいせつ)で、食材(しょくざい)の持(も)ち味(あじ)を生(い)かして調理する必要(ひつよう)がありました。そのため、日本料理(にほんりょうり)では強(つよ)い香辛料(こうしんりょう)をあまり使(つか)いません。そして、ほとんどの料理(りょうり)が、主食(しゅしょく)である米(こめ)と日本酒(にほんしゅ)に調和(ちょうわ)するように作られています。

　食材(しょくざい)として獣肉(じゅうにく)を使(つか)うことも極(きわ)めて少(すく)なく、これが日本料理(にほんりょうり)を淡泊(たんぱく)な味(あじ)にしている要因(よういん)の一(ひと)つです。これは肉食(にくしょく)を禁止(きんし)していた仏教(ぶっきょう)の影響(えいきょう)が大(おお)きいです。仏教(ぶっきょう)が国教扱(こっきょうあつか)いされた飛鳥(あすか)・奈良時代(ならじだい)には、「野獣(やじゅう)は食(た)べてよいが、家畜(かちく)は食(た)べるな」という禁令(きんれい)が再三出(さいさんで)されています。以後(いご)、明治(めいじ)に入(はい)って洋食(ようしょく)が広(ひろ)まるまで、庶民(しょみん)が牛(うし)や豚(ぶた)などの肉(にく)を食(た)べる機会(きかい)はほとんどありませんでした。そして日本(にほん)では野菜(やさい)と魚貝類(ぎょかいるい)が中心(ちゅうしん)の食卓(しょくたく)になるのですが、料理(りょうり)にうま味(み)を出(だ)すために使(つか)われるようになったのが、昆布(こんぶ)、かつお節(ぶし)などの独特(どくとく)の「だし」であり、室町後期(むろまちこうき)に始(はじ)まり江戸時代(えどじだい)に普及(ふきゅう)した醤油(しょうゆ)です。醤油(しょうゆ)は日本料理(にほんりょうり)になくてはならない調味料(ちょうみりょう)であり、この醤油(しょうゆ)があったからこそ、煮物(にもの)や生(なま)の魚(うお)を用(もち)いた料理(りょうり)が発達(はったつ)したと言(い)っても過言(かごん)ではないでしょう。

　また、日本料理(にほんりょうり)は「目(め)で楽(たの)しみ、舌(した)で味(あじ)わう」と言(い)われるように、外形(がいけい)の美(うつく)しさを尊重(そんちょう)して、盛(もり)つけの技術(ぎじゅつ)とか食器(しょっき)との調和(ちょうわ)とかの美(うつく)しさを重(おも)んじます。そこで食器(しょっき)が大切(たいせつ)になるのですが、日本料理(にほんりょうり)は原則(げんそく)として１点(てん)1(１)人前盛(にんまえざか)りですし、季節(きせつ)や行事(ぎょうじ)・料理(りょうり)に応(おう)じて器(き)を使(つか)い分(わ)けますから、器(き)の種類(しゅるい)や数(かず)も自(おの)ずと多くなります。　今の日本料理(にほんりょうり)の基礎(きそ)が出来上(できあ)がったのは鎌倉(かまくら)・室町時代(むろまちじだい)と言(い)われていますが、日本料理(にほんりょうり)の食事(しょくじ)の作法(さほう)が確立(かくりつ)したのもこのころです。今(いま)では知(し)っている若者(わかもの)も少(すく)なくなっていますが、代表的(だいひょうてき)な作法(さほう)を紹介(しょうかい)しましょう。

　姿勢(しせい)を正(ただ)して音(おん)をたてないで食(た)べること。食(た)べたあとは膳(ぜん)や皿(さら)の上(うえ)を片(かた)づけること。こみ箸(はし)（箸(はし)の先(さき)で料理(りょうり)を口(くち)に押(お)し込(こ)む）、移(うつ)り箸(はし)（菜(さい)から菜(さい)を続(つづ)けて食(た)べる）、さぐり箸(はし)（器(き)の中(なか)を箸(はし)でかき混(ま)ぜて自分(じぶん)の好(す)きなものをとる）、もぎ食(く)い（箸(はし)についている食(た)べ物(もの)を口(くち)でもぎ取(と)る）をしないこと。骨(ほね)つきの魚(さかな)は目(め)の下(した)から箸(はし)をつけ、上身(じょうみ)を食(た)べたら中骨(ちゅうほね)を外(はず)して下身(げみ)を食(た)べ、骨(ほね)は皿(さら)の隅(すみ)にまとめることなどです。

　友(とも)だち同士(どうし)で食事(しょくじ)をするときは、それほど気(き)にしなくてもいいのですが、将来(しょうらい)、料亭(りょうてい)などで会食(かいしょく)するような機会(きかい)もあるでしょうから、覚(おぼ)えておいて損(そん)はしないでしょう。

　さて、日本(にほん)には二大食文化(にだいしょくぶんか)があります。よく挙(あ)げられるのが、上方(かみがた)（関西(かんさい)）のうどんと江戸(えど)（関東(かんとう)）のそばの味(あじ)の違(ちが)いです。江戸(えど)はその後背地(こうはいち)が信州(しんしゅう)など土地(とち)の痩(や)せたところが多(おお)かったので、そこで育(そだ)ったそばをおいしく食(た)べるためのそば文化(ぶんか)が発達(はったつ)しました。関東(かんとう)のそばのつゆは、濃口醤油(こいくちしょうゆ)とかつお節(ぶし)をたっぷり使(つか)った濃厚(のうこう)なつゆで、その黒(くろ)いつゆをちょっとだけそばにつけて食べます。それに対(たい)して上方(かみがた)のうどんは、昆布(こんぶ)から引(ひ)き出(だ)したうま味(み)に薄口醤油(うすくちしょうゆ)を合(あ)わせて、半透明(はんとうめい)のまろやかなつゆを作(つく)り、じゃぶじゃぶつけるどころかつゆもいっしょに飲んでしまいます。彼(かれ)らにしたら、関東(かんとう)の飲(の)めないつゆなどつゆじゃない、となります。また、関西人(かんさいじん)には納豆(なっとう)は食(た)べる習慣(しゅうかん)がありませんから、おいしそうに納豆(なっとう)を食(た)べている関東人(かんとうひと)を見(み)て、なんであんな気持(きも)ちが悪(わる)いものが食(た)べられるんだろう、となります。そうして関東(かんとう)の味(あじ)と関西(かんさい)の味(あじ)について、「どちらがうまいか」と勝負(しょうぶ)のつけようがない論戦(ろんせん)が始(はじ)まるのです。