小売業の海外市場参入に関する海外市場参入形態モデル
ー日系コンビニエンス・ストアの中国市場参入形態を中心としてー
研究背景:
現在の日本企業の海外における事業活動は活発化している。業種別から見れば、経済産業省「海外事業活動基本調査」(図表1)によると、様々な業種が外国へ進出する際、日本の小売業も最近新たに海外市場に継続して進出していく姿が見える。百貨店では伊
勢丹,高島屋,三越など 6 社,食品小売業ではイオンなどの総合量販店(GMS) とセブンイレブン,ファミリーマート,ローソンなどのコンビニエンス・ストアである。
図表1 業種別海外売上高比率
出所:経済産業省「第37回 海外事業活動基本調査」
その中、日本の典型的な小売としての日系コンビニエンス・ストア各社の海外進出が活発化している。元々、コンビニ業態は中国に存在していなかった、2004 年には中国の小売市場を全面的に開放するとともに,多くの日系コンビニは相次いで中国市場に進出した。その後、中国系のコンビニ企業は日系コンビニを模倣しながら発展し続けた。25年の時間を経て、現在、中国のコンビニ業界の発展は成長期の段階に至っている
中国のコンビニ業界の発展に伴い、コンビニ業の研究も豊富になった。しかし、既存研究は主に「参入マーケティング次元」で日系コンビニは各進出市場における現地適応化のプロセスを検討したが、「非マーケティング次元」での考察が不十分である。従って、本研究は「非マーケティング次元」の視点から日系コンビニの中国市場へ参入初期の参入形態選択と参入後の参入形態の段階的な変化について、動態的な視点に基づいて検討したい。
問題意識:
セブンイレブン・ジャパンは中国市場に参入するに際して、最初はどうして単独的な参入形態を選択するのか?参入後、なぜ参入形態が段階的に変化するのか?参入形態を変化するロジックが何であるか?ファミリーマートやローソンなどもこのような参入後の形態変化するのか?
研究目的:
日系コンビニ(セブンイレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソン)の中国市場への参入形態を事例として、三社の参入初期の参入形態選択メカニズムと参入後時系列的な変化状況を分析し、共通点と変化のロジックを見つけて、動態的な視点に基づいて、中国市場への参入形態モデルを構築する。
研究意義:
既存研究の中で、「非マーケティング次元」の考察が不十分である。日系コンビニの中国市場へ参入初期の参入形態選択と参入後の参入形態の段階的な変化について、動態的な視点に基づいて検討することを通じて、日系コンビニの中国市場への参入形態モデルを構築し、小売業の国際進出へ示唆を与える。
研究内容:
①全般的な企業の海外市場参入形態モデルについて先行研究をレビューする。小売業界における海外市場参入行動に関する先行研究を考察する。日系コンビニの海外展開に関する先行研究を分類し、考察する。従来の研究での足りない部分を見つけて、本研究の位置づけを決める。
②セブンイレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンは中国市場に初期参入するに際して、参入形態の選択メカニズムを解明し、どういう要因がその参入形態を選択させ、そしてそれがどのような経営成果に帰結しているのかを明らかにする。また、三社は参入形態が採用され、参入後の経験に伴い、参入形態の時系列的な変化状況を明らかにする。参入形態の段階的な変化や出資比率の変化など具体的に、どういう要因が変化させるのかを明らかにする。
先行研究:
⑴海外市場参入形態モデルに関する先行研究
富山栄子(2001)は海外市場参入行動の二つの次元があると定義される。一つは、海外市場においてどのような製品、価格、流通、販売促進など戦略を採用したのかを議論する「参入マーケティング次元」であり、もう一つはマーケティング次元以外の参入行動に関する「非マーケティング次元」である。富山栄子(2001) によると、「非マーケティング次元」の研究を「参入形態モデル」と呼んだ。「参入形態モデル」は参入モデル次元と国際化モデル次元と分かれる。参入形態の選択メカニズムを明らかにしようとしたモデルを議論する「参入形態モデル」であり、もう一つは特定市場における参入形態の時系列的な変化を説明する国際化モデルである。
⑵小売業の海外市場参入に関する先行研究—参入動機に関する先行研究
鳥羽(2000)は企業要因を競争優位、国際知識、国際経験、経営態度の四つの変数を整理している。企業要因に関しては、経営者の成長志向性や海外市場への進出を学習機会と捉えているということが実態調査から明らかになり、小売企業が能動的な動機からの海外進出行動をしていることが強調された。
川端(1990)は小売企業上位200社に対して、海外進出理由についてアンケート調査を行った。結果により、動機研究において、国内市場の成熟化や同業他社との競争の激化といったプッシュ要因が強調されてきたことに反して、実際は海外市場を成長の機会として能動的に進出するといったプル要因が国際化の動機に強く影響を与えていることが明らかになった。
⑶日系コンビニの海外展開に関する先行研究
①セブンイレブンの海外展開
店舗数がもっとも多いのは、セブン-イレブンである。しかし、セブンイレブン・ジャパンが直接権益をもって展開をしているのは中国の上海以北とアメリカ(ハワイを含む)の店舗のみである。2005年2月に、セブン-イレブン・ジャパンはセブンイレブンを完全子会社にしたことで、日本主導のグローバル戦略が完全に明確化され、国内だけでなく、海外を含むセブン-イレブン・グループ全体の運営に指導力を発揮しようとしつつある。
②ファミリーマートの海外展開
最初から自らの力で積極的に国際展開をしている。1988年の台湾一号店を皮切りに、現在アジアを中心に、もっとも積極的に海外展開をしている。2011年7月に海外店舗数は1万店を突破した。2012年は、9,077店の国内店舗数に対して、海外店舗数は1万457店と海外店舗数のほうが上回っているほどである。
③ローソンの海外展開
1996年に中国の上海への進出に始まる。そして、主に中国市場での事業を中心に展開している。中国以外ではあまり積極的な展開を行っていない。2011年にインドネシア、2012年にアメリカのハワイ、そして同年タイへと進出してきた。そして2014年にフィリピンに進出してきた。
参考文献:
川端基夫(2000)『小売業の海外進出と戦略─国際立地の理論と実態』、新評社
富山栄子(2001) 「海外市場参入研究アプローチの概観. ―旧ソ連・東欧諸国市場参入分析に向けた分析視点の設定―」『現代社会文化研究N21』
川端基夫(2005)「日本小売業の多国籍化プロセス:戦後における百貨店・スーパーの海外進出史」『龍谷大学経営学論集』45(3)、76-91頁
矢作敏行(2007)『小売国際化プロセス―理論とケースで考える』有斐閣
青木均(2008)『小売業態の国際移転の研究─国際移転に伴う小売業態の変容─』、成文堂。
鳥羽 達郎(2009) 「小売企業の海外進出と参入様式--「フランチャイジング」と「合弁」を中心として」『大阪商業大学論集』5(1), 279-295,
住谷宏(2009) 「小売マーケティングの現代的焦点」 『現代の小売流通』 179—218,中央経済社
佐藤幸人(2012)「日系コンビニの中国における戦略の選択と調整」『映像情報メディア学会技術報告』36(2), 7-12
川邉 信雄(2012)「日系コンビニエンス・ストアのグローバル戦略 : 2005年以降のアジア展開を中心に」 経営論集22(1), 1-23