龙舌兰
寺田寅彦
翻译:王志镐
一整天潮乎乎的,让人心烦的雨雾似乎停了,不知从何处传来长长的汽笛声,飘荡在这寂静的黄昏时分湿漉漉的空气中。直到刚才,邻家的风琴还在反复奏着“绿叶茂密樱花井”,风琴一停,马上门铃响了。虽不觉有风,屋檐下叶樱上的水滴却啪嗒啪嗒掉了下来。
“是第一声春雷,明天像是个好天啊。”厨房里奶奶喃喃自语道。
仿佛来自地之底、天之际,隆隆雷声使人听了胆战。不知道是白天读过的悲惨小说,还是邻居家的一曲“绿叶茂密樱花井”,如今使我搅乱了心绪。每当此时,我会像平时那样,将胳膊杵在桌子上,抱着脑袋,凝视着空荡荡的墙壁,追寻着很久以前,已故先人的梦幻之影。不知为什么,不管是想起来的事也好,想不起来的事也好,一旦出了神,就连雷声也听上去更近了。突然间我想起来,与之一起清晰地浮现在眼前的,是一盆被雨淋湿了的龙舌兰。
一日じめじめと、人の心を腐らせた霧雨もやんだようで、静かな宵闇の重く湿った空に、どこかの汽笛が長い波線を引く。さっきまで「青葉茂れる桜井の」と繰り返していた隣のオルガンがやむと、まもなく門の鈴が鳴って軒の葉桜のしずくが風のないのにばらばらと落ちる。「初雷様だ、あすはお天気だよ」と勝手のほうでばあさんがひとり言を言う。地の底空の果てから聞こえて来るような重々しい響きが腹にこたえて、昼間読んだ悲惨な小説や、隣の「青葉しげれる桜井の」やらが、今さらに胸をかき乱す。こんな時にはいつもするように、机の上にひじを突いて、頭をおさえて、何もない壁を見つめて、あった昔、ない先の夢幻の影を追う。なんだか思い出そうとしても、思い出せぬ事があってうっとりしていると、雷の音が今度はやや近く聞こえて、ふっと思い出すと共に、ありあり目の前に浮かんだのは、雨にぬれた竜舌蘭の鉢である。
那一年河野家的小义出生,算起来已经是十四五年前的事了。我那时才十或者十三岁的样子。
梳着发髻的兼作爷过来通知,说是几天后就是义雄出生后的第一个节日初节,邀请大家出席。
我还记得那次送来的红白饼特别大。终于到了那一天,母亲和我两人乘车出门。恰逢下雨,在车内觉得很不舒畅。一路摇摇晃晃,来到离我住的小镇一里半路的乡间石头小道,终于来到姐姐家。大门口小河中的菖蒲被雨淋得蔫呼呼的。来了许多客人,母亲殷勤地向她们一一鞠躬,聊表久别之情。我萎缩在母亲身后,觉得百无聊赖,恰逢姐姐家的小俊出来了,一副迫不及待的样子,拉着我去看水池里的鲤鱼。姐姐家由于有池塘,让小时候的我好生羡慕。池塘占了庭院的中间位置,大门口小河里的水,从地表往地板下面穿过去,该水池通往后面的水田,水就像漏掉似的。这里养着许多大大的鲤鱼、红鲤鱼。这时节梅雨增加了浑浊的水,我正以为它们在老老实实地游泳呢,便不时发出吓人的声音,水花飞溅。水池的周围是假山,只有不多几棵瘦骨嶙嶙的卷柏、棕榈树等,庭院角落平坦的岩石上,摆着很大的龙舌兰花盆。姐姐刚嫁到这里的时候,第一次见到这花盆,就觉得是珍贵的花草,直到今天,每次想起故乡的姐姐,就一定会想起这个水池边的龙舌兰,而今天想起来的就是这个花盆。
河野の義さんが生まれた年だから、もうかれこれ十四五年の昔になる。自分もまだやっと十か十三ぐらいであったろう。きたる幾日義雄の初節句の祝いをしますから皆さんおいでくださるようにとチョン髷の兼作爺が案内に来て、その時にもらった紅白の餅が大きかった事も覚えている。いよいよその日となって、母上と自分と二人で、車で出かけた。おりからの雨で車の中は窮屈であった。自分の住まっている町から一里半余、石ころの田舎道をゆられながらやっとねえさんの宅へ着いた。門の小流れの菖蒲も雨にしおれている。もうおおぜい客が来ていて母上は一人一人にねんごろに一別以来の辞儀をせられる。自分はその後ろに小さくなって手持ちぶさたでいると、おりよくここの俊ちゃんが出て来て、待ちかねていたというふうで自分を引っ張ってお池の鯉を見に行った。ねえさん所には池があっていいと子供心にうらやましく思うていた。池はちょっとした中庭にいっぱいになっていて、門の小川の水が表から床下をくぐってこの池へ通い裏田んぼへぬけるようにしてある。大きな鯉、緋鯉がたくさん飼ってあって、このごろの五月雨に増した濁り水に、おとなしく泳いでいると思うとおりおりすさまじい音を立ててはね上がる。池のまわりは岩組みになって、やせた巻柏、椶櫚竹などが少しあるばかり、そしてすみの平たい岩の上に大きな竜舌蘭の鉢が乗ている。ねえさんがこの家へ輿入れになった時、始めてこの鉢を見て珍しい草だと思ったが、今でも故郷の姉を思うたびにはきっとこの池の竜舌蘭を思い出す。今思い出したのはこの鉢であった。
隔着水池,被命名为水池房间的这个小客厅对面的一侧,是从厨房延伸过来的堆房的板窗,在这上面,是相当漂亮的内二楼。
池を隔てて池の間と名のついたこの小座敷の向かい側は、台所に続く物置きの板蔀の、その上がちょっとしゃれた中二階になっている。
那时候乡村孩子出生后第一个节日的庆祝宴会,一般要持续两天,亲属自不用说,平时素不往来的远亲,从堂、表兄弟姐妹,到从堂、表兄弟姐妹,其中不乏远道而来的、需要预定住宿的客人。还有从邻村来的佃户,常来往的工匠,大家聚集在一起,盛大庆祝一番。近亲的妇人全体出动,帮忙端杯托盘斟酒。除此之外,照例要迎来从城里来的戏子助兴,这时候已来了两位。此外,因为在庆祝期间要泊船,水池对面的内二楼便成为戏子的化妆室、休息室、甚至寝室。
あのころの田舎の初節句の祝宴はたいてい二日続いたもので、親類縁者はもちろん、平素はあまり往来せぬ遠縁のいとこ、はとこまで、中にはずいぶん遠くからはるばる泊まりがけで出て来る。それから近村の小作人、出入りの職人まで寄り集まって盛んな祝いであった。近親の婦人が総出で杯盤の世話をし、酌をする。その上、町から芸者を迎えて興を添えさせるのが例なので、この時も二人来ていた。これも祝いのあるうちは泊まっているので、池の向こうの中二階はこの芸者の化粧部屋にも休憩所にもまた寝室にもなっていた。
从初黄昏直到半夜,家中忙得团团转,喧闹不堪。厨房里器皿盆钵互相碰撞的声音,切菜刀的声音,厨师和女仆粗鲁的说话声,等等,在一般的吵闹中,再添加上猫、狗、还有当雨刮进来时,朝土地房间集中的鸡的尖叫声,那就更加热闹了。里间、客厅、门口自不用说,到处都是人,可还要一个个地行礼,互相说着难懂的客套话。
夕方近くから夜中過ぎるまで、家じゅうただ目のまわるほど忙しく騒がしい。台所では皿鉢のふれ合う音、庖丁の音、料理人や下女らの無作法な話し声などで一通り騒がしい上に、ねこ、犬、それから雨に降り込められて土間へ集まっている鶏までがいっそうのにぎやかさを添える。奥の間、表座敷、玄間とも言わず、いっぱいの人で、それが一人一人にお辞儀をしてはむつかしい挨拶を交換している。
从这混杂的房间钻过去,头上是无法摆脱的礼仪和来回往客厅搬运杯盘酒肴,看上去忙得不亦乐乎。小伙伴们来了许多,兴高采烈、劲头十足地到处乱跑。我那时本来就性格忧郁,对这样的喧哗不感兴趣,因此像往常一样,在黄昏时分马马虎虎吃完饭后,就向里面储藏间走去,从书架上拽出《八犬佛》、《三国志》等书籍,与我熟识的信乃、道节、孔明和关羽亲近一番。这个房间作为女人的更衣室,四面排列着一大排折叠衣架,上面挂着竹制吊衣架,有华丽花俏的,有朴素无华的,各种各样的衣服,就像晾晒衣服似的并列着。在香粉味儿、汗臭味儿充斥的奇怪的香味中、我读着信乃书中海滨道路上幽灵对话的一段。随着夜晚渐深,客厅那里变得热闹起来,合着三弦琴的调子,女子唱歌的清脆声音清晰可闻。不同调子的民歌一下子响起,还有敲碟子的声音。过了一会儿,我觉得歌声停止了,突然鞭声萧萧,不知是谁在喝倒彩。
その混雑の間をくぐり、お辞儀の頭の上を踏み越さぬばかりに杯盤酒肴を座敷へはこぶ往来も見るからに忙しい。子供らは仲間がおおぜいできたうれしさで威勢よく駆け回る。いったい自分はそのころから陰気な性で、こんな騒ぎがおもしろくないから、いつものように宵のうちいいかげんごちそうを食ってしまうと奥の蔵の間へ行って戸棚から八犬伝、三国志などを引っぱり出し、おなじみの信乃や道節、孔明や関羽に親しむ。この室は女の衣装を着替える所になっていたので、四面にずらりと衣桁を並ベ、衣紋竹を掛けつらねて、派手なやら、地味なやらいろんな着物が、虫干しの時のように並んでいる。白粉臭い、汗くさい変な香がこもった中で、自分は信乃が浜路の幽霊と語るくだりを読んだ。夜のふけるにつれて、座敷のほうはだんだんにぎやかになる。調子を合わす三味線の音がすると、清らかな女の声でうたうのが手に取るように聞こえる。調子はずれの鄙歌(ひなうた)が一度に起こって皿をたたく音もする。ひとしきり歌がやんだと思うと、不意に鞭声粛々とたれやらがいやな声でわめく。
我正在看画:信乃袖手俯首,一只手触前面的榻榻米,叼着一只袖子,在海滨道路后面见到影子般呈现的幽灵,这时,我后面的隔扇滑溜溜地打开了,有人进来了。一看,是位年长的女艺人。我不顾一切,撩开挂在角落里的衣架上的和服袖子,不知为什么被隔在和服的带子之间,她突然回头朝我的方向说了句:“是你在那里吗,小孩!”然后坐在我边上,几乎触到我的膝盖,“真是烦人,要化装了。”说着看了看画,头发油散发出香味。两人一声不响,专心致志地看画,不知是谁向这里喊了声:“清香女士!”女艺人一言不发站了起来,向屋外走去。
信乃が腕をこまねいてうつむいている前に片手を畳につき、片袖をくわえている浜路の後ろに、影のように現われた幽霊の絵を見ていた時、自分の後ろの唐紙がするするとあいて、はいって来た人がある。見ると年増のほうの芸者であった。自分にはかまわず片すみの衣桁に掛かっている着物の袂をさぐって何か帯の間へはさんでいたが、不意に自分のほうをふり向いて「あちらへいらっしゃいね、坊ちゃん」と言った。そして自分のそばへ膝のふれるほどにすわって「オオいやだ、お化け」と絵をのぞく。髪の油がにおう。二人でだまって無心にこの絵を見ていたらだれかが「清香さん」とあっちのほうで呼ぶ。芸者はだまって立って部屋を出て行った。
与小俊两人到里间去睡觉的时候,客厅里还是黄昏那个样子。
俊ちゃんと二人で奥の間で寝てしまったころも、座敷のほうはまだ宵のさまであった。
第二天,从早就开始下雨。与昨夜的喧闹正好相反,静得使人感到意外。男人在外面的客厅,女人集中在里面一间,正冷清地说着话。母亲正与姐姐一起从壁橱中拿孩子的衣服,一面还说着什么,还有人在摊开的报纸上刚开始打瞌睡。沉闷的空气充满了房间,还充满了酒气,不论是谁都一副茫然若失的样子。厨房里,时常有猪肉、乳猪和鱼骨被斩的单调声音,在静悄悄的房间里回响,由此诱发出另一种睡意。内二楼的方向,用手指弹三弦琴的声音,伴随着用带媚气的语调低声唱道:“夜雨或许来了吧.。” 然而眼看就到了梅雨季节,屋檐上的水珠在镀锌的排水管里抽泣着,使我想起了厨房里回响的斩骨头声音。
あくる日も朝から雨であった。昨夜の騒ぎにひきかえて静かすぎるほど静かであった。男は表の座敷、女どうしは奥の一間へ集まって、しめやかに話している。母上はねえさんと押し入れから子供の着物など引きちらして何か相談している。新聞を広げた上に居眠りを始めている人もある。酒のにおいのこもった重くるしいうっとうしい空気が家の中に満ちて、だれもかれも、とんと気抜けのしたようなふうである。台所ではおりおりトン、コトンと魚の骨でも打つらしい単調な響きが静かな家じゅうにひびいて、それがまた一種の眠けをさそう。中二階のほうで、つまびきの三弦の音がして「夜の雨もしや来るかと」とつやのある低い声でうたう。それもじきやんで五月雨の軒の玉水が亜鉛のとゆにむせんでいる。骨を打つ音は思い出したように台所にひびく。
白天与小俊等小伙伴一起,到隔壁邻居的新房子去玩。他们家的人都到姐姐家去帮忙了,只有因为中风手脚不能动的祖父和雇佣的老奶奶在家,往日热闹的家里,现在鸦雀无声,壁龛里金太郎和钟馗的像看上去孤零零的。大家玩十六子儿跳棋、将棋马的猜谜等,看来提不起兴趣。从走廊一侧走出来一看,越过围着小庭院的低矮土墙,只见一片绿色田野。雨雾如烟,不远处八幡的森林和衣笠山朦朦胧胧地沉浸在水墨画中,晕映着浅浅的黄绿色的稻田里,除草人的蓑笠加了一个黄点儿。还可以听见曲调缓慢的、打瞌睡似的除草歌。歌词听不太清楚,单调而悲伤的节奏,好像要咽气似的,拖着长音,一曲唱完,沉默一会儿,又传出慢条斯理的歌声,听了这歌,不知为什么胸口堵得慌,急着想回姐姐家,便一个人回来了。到家一看,客人陆续开始来了,照例又开始了令人讨厌的礼仪。刚才的头疼好像加剧了,心情似乎平静不下来,对别人的问话感到厌烦,便一个人又钻到储藏室去看《八犬佛》,不过马上又感到厌烦了。我想去看鲤鱼,就向水池之间走去。我将脑袋靠在走廊边缘的立柱上,站着发呆。从积水的稻田流入的浮萍,一边缓慢地旋转着,一边在水面上与雨滴合在一起消失了,与消失的小小的波纹一起流走了。鲤鱼在庭院角落假山的阴影中,友好地聚集在一起,静静地摇动着尾鳍。龙舌兰带刺的厚厚叶子竖立着,湿润的色彩中闪着光芒。在内二楼临池的窗户,可以看见昨夜那位清香的寂寞的脸。她托着腮,靠在窗缘上,不知为什么忧郁地凝视着淡墨色的天空。太阳穴上贴着头疼药膏,一边梳理着向后烫的头发,一边朝着我的方向轻轻点头,露出了半个脸,笑着。
昼から俊ちゃんなどと、じき隣の新宅へ遊びに行った。内の人は皆ねえさんのほうへ手伝いに行っているので、ただ中気で手足のきかぬ祖父さんと雇いばあさんがいるばかり、いつもはにぎやかな家もひっそりして、床の間の金太郎や鐘馗もさびしげに見えた。十六むさし、将棋の駒の当てっこなどしてみたが気が乗らぬ。縁側に出て見ると小庭を囲う低い土塀を越して一面の青田が見える。雨は煙のようで、遠くもない八幡の森や衣笠山もぼんやりにじんだ墨絵の中に、薄く萌黄をぼかした稲田には、草取る人の簑笠が黄色い点を打っている。ゆるい調子の、眠そうな草取り歌が聞こえる。歌の言葉は聞き取れぬが、単調な悲しげな節で消え入るように長く引いて、一ふしが終わると、しばらく黙ってまたゆるやかに歌い出す、これを聞いているとなんだか胸をおさえられるようで急にねえさんの宅へ帰りたくなったから一人で帰った。帰って見るともうそろそろ客が来始めて、例のうるさいお辞儀が始まっている。さっきから頭が重いようで、気が落ち付かぬようで人に話しかけられるのがいやであったから、ひとりで蔵の間へはいって八犬伝を見たが、すぐいやになる。鯉でも見ようと思って池の間へ行って見た。縁側の柱へ頭をもたせてぼんやり立つ。水かさのました稲田から流れ込んだ浮き草が、ゆるやかに回りながら、水の面へ雨のしずくがかいては消し、かいては消す小さい紋といっしょに流れて行く。鯉は片すみの岩組みの陰に仲よく集まったまま静かに鰭を動かしている。竜舌蘭の厚いとげのある葉がぬれ色に光って立っている。中二階の池に臨んだ丸窓には、昨夜の清香のさびしい顔が見える。窓の縁に頬杖をついたまま、何やら物思わしそうに薄墨色の空のかなたを見つめている。こめかみに貼った頭痛膏にかかるおくれ毛をなでつけながら、自分のほうを向いたが、軽くうなずいて片頬で笑った。
傍晚,母亲由于过于想家,不顾姐姐的劝阻,准备回家了。“你也要回家了呢!”听到这话时,总觉得有点依依不舍,只是暧昧地用鼻子“嗯”了一声作为回答。姐姐劝我说:“这孩子一定过得很好,那么,你再住一宿吧!”对此我也是用鼻子“嗯”了一声。母亲说:“再住一宿难以启齿,多亏你的帮忙了。”终于一个人准备回家的事了。派人从马车休息所请来的车来了,与姐姐一起送出门口。马车在有柳树的市镇衙门的十字路口拐弯,到了看不见的时候,我突然觉得有点不安,心想还是一起回去的好。“那么,走吧。”我由姐姐领着朝家走去。
夕方母上は、あんまり内をあけてはというので、姉上の止めるのにかかわらず帰る事になった。「お前も帰りましょうね」と聞かれた時、帰るのがなんだかなごり惜しいような気もして「ウン」と鼻の中で曖昧な返事をする。ねえさんが「この子はいいでしょう。ねえ、お前もう一晩泊まっておいで」とすすめる。これにも「ウン」と鼻で返事する。「泊まるのはいいがねえさんに世話をおかけでないよ」と言っていよいよ一人で帰るしたくをせられる。立て場まで迎えにやった車が来たのでねえさんと門まで送って出た。車が柳の番所の辻を曲がって見えなくなった時急に心細くなって、いっしょに帰ればよかったと思う。「さあおいで」とねえさんは引っ立てるように内へはいる。
头疼的变得越来越厉害了,心中忐忑不安。反复想着如果与母亲一起回去就好了。我觉得自己在朦胧的雨雾中,在乡村小道上缓慢行走的大篷车的影子后面追赶着,自己家门口的柳树使我怀念,在我心中摇曳。吵吵嚷嚷煞风景的酒宴多少还残留在心中,是因为这个耽误了回家吗?我想回家,现在就想回家,我在厕所门口的立柱那里站着,悬在南天树枝上的纸,是在为扫晴娘祈祷吧。雨天的黄昏,我佯装不知,蹑手蹑脚地挨近房檐,早已是掌灯时分了。屋内渐渐变得热闹起来,欢闹的笑声在我脑袋中回响,只是增加了自己的寂寞。
頭のぐあいがいよいよ悪くなって心細い。母上といっしょに帰ればよかったと心で繰り返す。けむる霧雨の田んぼ道をゆられて行く幌車の後ろ影を追うような気がして、なつかしいわが家の門の柳が胸にゆらぐ。騒々しい、殺風景な酒宴になんの心残りがあって帰りそこなったのか。帰りたい、今からでも帰りたいと便所の口の縁へ立ったまま南天の枝にかかっている紙のてるてる坊さんに祈るように思う。雨の日の黄昏は知らぬまに忍び足で軒に迫ってはや灯ともしごろのわびしい時刻になる。家の内はだんだんにぎやかになる。はしゃいだ笑声などが頭に響いてわびしさを増すばかりである。
姐姐见我心情有点不好,又难以启齿,就说早点睡吧,为我铺好了床。淡绿色底、印染着肉色大鹤的圆圈的印花布被褥,至今还留在我的心里。因为头脑清醒,怎么也睡不着。在天井里悬挂着的金银色的防蝇垂珠上,映照着小小的我的睡姿,看着看着,变得迷迷糊糊起来,身体渐渐落了下来,像是在走,什么也不知道了,觉得十分孤独。关于母亲已经回家,让我在里屋的佛坛前说些什么好呢?便无缘无故地悲伤起来。与姐姐家的热闹相比,我对自己家的冷清深有体会。想起了许多事情,咬着睡衣的领子,眼泪从眼角流到了鬓角,渗透了枕头。听得见客厅里正唱着“夜的雨”,水池边的龙舌兰浮现在眼前,看得见清香的脸,露出半个脸,笑着。
姉上に、少し心持ちが悪いからと、言いにくかったのをやっと言って早く床を取ってもらって寝た。萌黄地に肉色で大きく鶴の丸を染め抜いた更紗蒲団が今も心に残っている。頭がさえて眠られそうもない。天井につるした金銀色の蠅除け玉に写った小さい自分の寝姿を見ていると、妙に気が遠くなるようで、からだがだんだん落ちて行くようななんとも知れず心細い気がする。母上はもううちへ帰りついて奥の仏壇の前で何かしていられるかと思うとわけもなく悲しくなる。ねえさんのうちがにぎやかなのに比べてわが家のさびしさが身にしむ。いろんな事を考えて夜着の領(えり)をかんでいると、涙が目じりからこめかみを伝うて枕にしみ入る。座敷では「夜の雨」をうたうのが聞こえる。池の竜舌蘭が目に浮かぶと、清香の顔が見えて片頬で笑う。
这一夜,可怕的雷声轰鸣着,雨雾散去了。到了早上,完全放晴了,强烈的阳光照射着绿色的树叶。早早起了床,洗了洗脸,我的脑袋也清爽多了,生气勃勃地在公园投球,隔夜又在樋川到处乱跑。
この夜すさまじい雷が鳴って雨雲をけ散らした。朝はすっかり晴れて強い日光が青葉を射ていた。早起きして顔を洗った自分の頭もせいせいして、勇ましい心は公園の球投(たまな)げ、樋川(ひかわ)の夜ぶりと駆けめぐった。
阿义已长成漂亮的大人了,龙舌兰现在已没有了。
雷雨停了。明天像是好天。
(明治三十八年六月,杜鹃)
義ちゃんは立派に大きくなったが、竜舌蘭は今はない。
雷はやんだ。あすは天気らしい。
(明治三十八年六月、ホトトギス)