2020-01-29

新型肺炎、SARSから17年 巨大化中国が生む日本経済のリスク

藤中 潤 

2020年1月29日

全2872文字

感染が広がる新型コロナウイルスによる肺炎に、終息の兆しが見えない。2003年にもSARSの流行で日本社会は混乱したが、経済への影響は当時と比較にならないほど大きくなる。この間に強大になった中国。人の往来の増加が感染の危険を高め、企業のリスクも増幅している。

(写真=共同通信)

 中国内陸部で発生した新型コロナウイルスによる肺炎は、2002~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)と、あらゆる面で比べられている。感染源やウイルスの特性の違いから患者数、死者数に加え、株式市場からはSARSの際と値動きを比較する声が聞かれる。

 だが、日本経済に与えるインパクトは当時と比べるのが難しいほどだ。03年に44万人だった訪日中国人は、中国の経済成長に伴う日本政府によるビザの緩和、LCC(格安航空会社)の増加を背景に、19年に959万人(推計)と20倍以上になった。

 03年はインバウンド(訪日外国人)という言葉すら広がっておらず、日本百貨店協会が免税売上高の統計を取り始めたのは訪日外国人が増えた09年。その年に152億円だった免税売上高は、19年には3461億円(14年から化粧品などを含む)となった。日本国内での宿泊費や飲食などを含む中国人による消費の総額は19年に1兆7718億円となり、訪日客消費の37%を占めている。

支払っても搭乗口に来ない

注:訪日中国人は日本政府観光局(JNTO)、訪中日本人は中国国家統計局のデータをもとに編集部作成。2019年の訪日中国人数は推計値(写真=アフロ)

 今年の春節(旧正月)休暇は1月24日に始まり、中国政府は30日までの予定を2月2日まで延長した。日本の小売りの売り上げ依存度が高くなった中国客だが、近年は春節期間のような混雑を避ける傾向が強まっている。新型ウイルスについて百貨店の多くは「中国からの観光客が減るのか、中長期で見極める必要がある」(近鉄百貨店)と影響の大きさを測りかねている。

 一方、航空需要は減少し始めた。LCCのピーチ・アビエーションでは1月24~27日の時点で羽田~上海、関空~上海で通常よりもキャンセルが増え、料金を払っているのに搭乗口に現れない乗客も目立つという。日本国内のホテルの宿泊価格も急落している。

 このまま感染が広がるようなことになれば、航空旅客数の大幅な減少は避けられない。SARSの際も航空便への影響は大きかった。国際航空運送協会(IATA)によると、運んだ旅客数と飛行距離をかけ合わせて算出する「有償旅客キロ」はアジア・太平洋地域で03年に7460億旅客キロとなり、02年と比べて約5%減っている。日本航空(JAL)グループでは03年5月の中国線旅客数が前年同月比16.7%の水準まで落ち込んでいる。

 10年にJALが破綻した際、社長を辞任した西松遥氏は「リーマン・ショックでビジネスの需要がほぼ半減したが、もともとは01年の米同時多発テロ、03年のSARSがあった」と振り返っている。SARSは長期にわたってJALの経営不振が続く一因になっていた。当時と比べて中国を起点とする人の往来は各段に増えており、旅客数への影響がどこまで広がるか見通せない。

 第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは、こうした旅客需要や訪日客消費の減退を主因として、新型ウイルスが日本経済に与える影響が4カ月間に及ぶと仮定した場合、「名目GDP(国内総生産)を5270億円、下押しする可能性がある」と分析している。終息までの期間が長期化すれば、影響はさらに広がるという。

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